小熊は回復した
まだよろよろしているが、友達なのか小鹿の短い角につかまりながら歩いている
小鹿はちょっと歩きづらそうな顔をしている
男はうれしかったこんな気持ちはいつぶりだろうか
とりあえず小熊には果物を与えた、もちろん機械の果物だ
それから小熊が完全に回復するまで男は面倒を見た
隠れ家にいる他の動物たちとも仲良くなり、一人で歩けるようになるころには
種族の壁を越えて、お出かけまでするようになっていた
ここは動物園か
だがこれでまた学びが増えた
どうやら機械獣は種族の隔たりというものがないような気がする
かかわらない、とか捕食関係だとか、シビアな大自然の掟…というものは
もちろんあるだろうが、こんな風に仲良く遊ぶ姿を見ると
まるで教室の休み時間のようだ
人間のようにすら見えてくる
さて、小熊が退院する
いっぱいの果物と花で小熊の全回復を祝う
小熊はさみしそうに歩き出す
数歩歩いてはまたちらっと振り向き、また歩いてはこちらを向く
止めてもらいたいのだろうか、どこのかまってちゃんだ、男は思う
だがここで止めるわけにはいかない
野生動物なのだ、自然に帰ってもらわねばならない
こちらも責任はとれないし、これからあの戦場のような森で生きていくなら
自ら飛び込んでいかないとなんの学びも得られない
小熊は森の奥に消えていった
現在治療中の動物も治ったけど時々くる動物も、だれも何も話せないし話さないが
いつもの無言が、より静かに重く、感じられた
翌朝、小熊が来た
何事もなかったかのように
まるで登校してきたかのように
ごく自然にやってきた
そして夕方ごろに森に消えていった、下校か
だがこうなる機械獣は意外と多い
男もだんだん楽しくなって、芸を覚えさせてみたり、おもちゃを作って与えたり
まるでペットのように接した
特に小熊は毎日登校してきた
たまに花とか持ってくる、珍しい花が多いので、男はチェックに余念がない
小熊の出席率は断トツだった
男にもなついていた、やばい、自然に返さねば
だが男もなついていた
数か月一緒にいたある日、男は川で水浴びをしていた
すると突然、森の影からエンゲツが飛び出してきた
そして男めがけ、骨の槍を投げてきた
男に向かって槍が飛んでいく
ところがその槍は男の目の前で叩き折られた
エンゲツが驚く
そこには小熊が立っていた
爪で槍をはたき折ったのだ
男は自分が狙われていたことにはじめて気づく
朝霧の森の事件以降、エンゲツは男を見張っていた
ジトメザルの一派と思っているのか、結構狙ってくる
この時は完全に油断していた
男は小熊にお礼を言った
聞こえているのかいないのか、照れているようにも見えた
お礼に男はこの小熊に名前を付けることにした
ワコ(和心)と名付けた
彼は他の動物にも慕われている、彼がいると場が和む
そして男はこの小熊を通じて、機械獣に心があることを学んだ
だからワコとなずけた、彼とかいっているが性別はわからない
照れるあたりは女の子のようだが、たぶんそれはない
ワコは友達を増やしていった、隠れ家では名物になり、
ワコに会いに来るやつも出てきた
そして男が川や狩りや偵察に出るときは、男の護衛を務めてくれた
男が狩りをするときは狩猟犬のように獲物を追い込んでくれたり
用を足している時は背中を守ってもらった
ワコの反応が早いため、男は今までよりも数倍早く危険を感知することができた
名前を付けてから数週間がたった
ふと男は気付くき、いつものように声をかける「ワコ、背伸びた?」
最初に会った時と比べて、ワコは数センチ伸びていた
いやいや、数週間で数センチ?早いだろ
男は驚く
ワコは相変わらずテレテレとしている
いつものように、男は朝の狩りをしていた
もうきまった流れだが、獲物が男から逃げたため、男はワコに合図を送る
男はワコが「うん」と返事をしたような気がした
ある日、男は珍しく生物樹の切り株を見つける
機械樹の森から東へ少しでたところ
草原のあたりだ
そこで切り株を見つけた
そうやら大戦は森の外まで広がっているらしい
ワコがゴロゴロと切り株を転がして家まで運んでくれる
家に帰る
もうすっかり居ついている機械獣たちの真ん中に腰掛け
彫刻刀のような道具を使い、男は無造作に掘り始める
こう自然の中の生活が長く続くと、否が応でも大自然の力や、動物の生命力を思い知らされる
そうすると湧いて出てくるのは、祈る気持ちや神ってほんとにいるかもな、、などという
以前は信じたくもない事実だった
朝の美しい霧のかかった青い山々や、夕暮れの紫とオレンジの美しさ
川の清らかさ、樹々の逞しさ、そして生命の輝き
これを目の当たりにして、感動しないものはいないだろう
だがこの森は現在とても危険な状態にある
昨日はエンゲツ一族にある猿の少数部族が滅ぼされた
族長っぽい猿と数人が西の隠れ家にて現在治療中である
この状況、祈らずにはいられない
もはや男には、ひたすら治療に専念するだけでなく、何かにすがりたくなる気持ちもあった
だから、仏像を彫ろうとしていた
ただし、そんな専門的なものではない、自分のつたない技術力と、その時の気分で
なにかそれっぽいものができればいいな、程度のキモチだった
狛犬やシーサーみたいな、身近でまもってくれるようなものが欲しかった
ワコが興味津々に見つめる中、男は一刀目の刃を入れた

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