あれから数日が経った、ある朝のこと
男は藤の森からでて、川にいた
いつものように川で体を流していたところ
知らせを受けたワコが手勢と共に到着したと伝令鹿が知らせにきた
男はぼろぼろの布切れを身に着け、合流するために川から上がる
ここからが、正念場である
まずワコを待つ間にわかったことがある
船を囲んでいると思われた藤の森は若干のスキマがあって、すべてをカバーしているわけではない
そして囲んでいるというよりも、船の周りに集中しているという表現が正しかった
つまり、船を守るために存在するという仮説に対する反証が出たことになる
となると考えなおさねばならない
ただ藤の森に機械獣が寄り付かないのは事実で、生物もあまり来ない
これは事実のようだ
次に、海兵隊以外の種類もいるということ
どこの部隊かは不明であり、姿からすると迷彩のような柄の個体がいたり、逆に赤というか
やたら明るい色の個体(色はだいぶ落ちていて、部分的だが)もいたようだ
これは猿の偵察から得た情報で、男に声をかけた海兵隊員以外にもあの医療室付近に数体が確認された
こちらから見えているということは向こうからも丸見えということであり、実際猿団員は数匹
海兵隊などに後ろをとられたり、ただじっと見つめられたり(どこに瞳があるか知らないが)
なんだかからかわれているようにも感じた、いつでもやれるということだろうか
攻撃してこないところを見ると、敵意はないと思われる
ワコも来たところで、改めてあの一つ目の大男と話すことを決めた
とはいえ、前回の一つ目と今話に行ったところで会話にならないのは目に見えている
それどころかもし一つ目が強引な行動に出れば、命に係わる
男は考えたが、結局、一つ目の前に、竜や狼と話すべきだと思った
もし一つ目が強引な行動に出て、自警団が防衛行動に出た場合、おそらく戦闘になる
そうなると男達自警団は前方に一つ目、後方に竜や狼に挟まれることになる
そんなことになったら確実に全滅する
だから、せめて後方に対しては、話をつけておいて、前方に集中できる環境を作るべきと考えた
そもそも会話ができるのだろうか、でも試してみる価値はある、だいたい竜同士は話していた
そして男には少し前から気になっていたことがあった
南に入ってから、竜と狼に一度も襲われていないということだ…なぜなのか?
そういえば渓谷では竜や狼は襲ってきた、すごい攻撃だった
渓谷を抜けて、南の森に入ってからは蛇・鰐・虫などなど散々な目にあった
だが、そのなかに竜と狼はいなかった
今だって攻撃するなら藤の森の外で見張っていればいい、
やつらの会話能力ならそれくらいはできるはず、でも付近には見当たらない
理由がある…?
何かはわからないが、もしも何等かの意思をもって攻撃をしてこないのであれば
そこに対話の余地があるのではないか?
男はこのように仮説を立てた
男は自らの仮説を信じ、ワコ達自警団を連れて藤の森を出た
そして森を歩き回り、竜か狼を探した
やはり彼らは全然見つからず、男達はさんざん森の中を歩き回った
小規模の雀の偵察を飛ばしつつ、捜索する、
もし竜か狼を見つけたらその場で待ってもらうように指示をした
やはり攻撃してくるのは竜と狼以外の者ばかりだった
そして、やっと竜を見つけたと雀から報告がくる、
時間かかりすぎだろう、、
引き止めができているのかいないのかわからないが男は急いで向かった
逆に考えれば、待ってくれているのなら、対話の余地はある
男は密林を疾走した、枝や葉を剣で叩き切りながら進む
森から出て、草原のようなところに出た
すると遠くに、竜が一頭、こちらを見ているのに気が付いた
水色の竜だ
その周りをうちの雀がすばしっこくクルクルと飛び回っている
男は思った、待ってくれている、おまけに雀も襲われていない、だがなんでだ?
理由がわからない
男は走って水色竜の前に立った、近くでみると美しい水色をしている
水の中から空を見上げた時の光と水面のような色合いだ、白と青と水色と、、
こんな色の竜は北の森でも渓谷でも見ていない
男はまず、水色竜に深くお辞儀をした
根拠はないが、まずは礼をするべきと考えた
顔を上げ、まっすぐ竜の瞳を見ながら、男は言った
「突然声をかけ、さらに待たせてしまったことを詫びさせてほしい、
あなた方と話したくて探していたのだ」
言い終わって、男は竜の反応を待った
竜は何も言わずに、くるっと後ろを向き、ゆっくりと歩き出した
そしてちらっとこちらを振り向いた
男はこれが「ついてこい」と言っているように聞こえた
男はじめ自警団一行は水色竜の後ろについて歩き出した
密林をどんどんと進んでいく、先ほどよりも樹は高くなり、樹々や植物は大きくなった
どちらに進んでいるのかわからなくなってくる
ただわかっているのは、先ほどの生物と機械の入り混じった森と大きく異なり、
機械樹の森に入ったようだ
生物樹がなくなり、北の森のような重厚な樹々である
さらに密度が増して、空間いっぱいに機械の植物が生い茂っている
竜は迷うことなくスタスタと歩いていく、いつの間にか自警団は一列になっていた
そうでなければ歩けないくらいの獣道だった
どれほど歩いたのだろうか、日が暮れて、二つ月が顔を出した
木々の間からちらちらとこちらを見てくる
男はワコの背にのった
なかなか長距離を歩いている、上に下に、高低差も出てきた
山を越えているのではないだろうか
月明かりで樹々が照らされて、木の陰が地面に落ちる、まるで日中のような明るさだ
そこへ森が開けた、どうやら川にでたようだ
川を上流に上っていく
男はワコから降りて、自分の足で歩き始めた、なぜ降りたのかはわからない
降りたほうがいい気がしたのだ
少し歩いていくと、大きな大木が見えてきた北の森のよりも大きい
男達は大木を見上げるような形で立っていた、上に水色竜がいる
水色竜は大木の下で足を止め、こちらを振り返る
するとその場で頭を下げた、お辞儀である
男も思わずお辞儀を返した
すると水色竜は脇へ下がる
そしてどこからともなく声がした
「面を上げよ、楽にしてよい。……礼の弁えは、ひとまず心得ておるようだな」
男は声の方に向く
大木の横から、白い竜が出てきた、今まで見てきた細牙竜より少し大きいが、それよりも現れた時に
空気が重く感じられた
と同時に横から竜が出てきた。赤青緑、、色んな色の竜がいる。
水色は白い竜の横にいた、どうやら階級の高い竜だったようだ
男は声を詰まらせたが、一度お辞儀をしたのち、口を開けた
とその瞬間、ワコが横から大声をだした
「よくもうちの森を!仲間を!荒らしてくれたなこの野郎!!」
空気が凍った、男は終わったと思った
「俺たちの仲間はおまえらに殺されたんだ、ぶち殺してやる!!!」
爪をむき出しにして今にも飛び掛かりそうになっているワコを男は全身で止めに入った
周りの竜が鼻息を荒げる、猿たちが臨戦態勢になる
ここまで来た意味がなくなってしまう、男はワコを止めつつ、慌てて言葉をつないだ
「ワコ気持ちはわかるが、落ち着け」
「でも…」
「たのむ、ここは俺に任せてほしい」
竜たちもぎゃあぎゃあと騒ぎだし、とびかかりそうなやつも出てきた
「われらの聖域にきてなんとくだらない、暇つぶしにもならん、失せろ」
白い竜の横にいた黒い竜が淡々といった
白い竜は何も言わず、ただ男をじっと見ている
「聞こえなかったか、失せろといったのだ」黒い竜がイライラしながら言った
「お待ちください、私は北の森の教師であり医者です、突然の訪問をお許しください、
ここへきた理由はあなた方に聞きたいことがあるのです」
男はなるべく落ち着いて話した
他の竜がさらに騒ぎだす、きっと悪口であろうことは明白だった
いまにも飛び掛かってきそうな荒れ具合だった
黒い竜が追い返そうとしてまた口を開けようとしたとき
白い竜が制した
しん…と静まり返る
あんなに騒がしかったのが、いまはもう風の音くらいしか聞こえない
白い竜はゆっくりと視線を男に向け、しばらくじっと見つめていた
怒りも、怯えも、その目からは読み取れないようだった
「活きがいいのう…」白い竜がつぶやく
「よかろう、いってみるがよい」続けて白い竜がいう
「聞きたいことは二つある、一つ、なぜ北を攻めたのか?
二つ、なぜ我々のことを渓谷までは襲ってきたのに、南の森に入ってからは襲ってこなかったのか?」
男は一息に聞いた
白い竜はゆっくりと歩きながら男の方へ向かってくる
風が吹き葉がざわざわと鳴く、一歩一歩ゆっくりと近づいてくる
男はだんだんと見上げる形になった、でかい、、、
目の前まで来て、白い竜はゆっくりと息を吸い込んでから、話始めた
「やれやれ、質問の多いやつじゃ、
そもそも、われらは攻めてなどおらぬ、境を越えた者を追い払ったまでのこと」
白い竜は冷静にゆっくりと話した
「猿たちは境を越えただけで攻撃はしていない、一体だれが戦を始めたのか?」
男は聞く
「わしらにも、原因はわからぬ、猿どもが境を超えてより南は乱れ始めた、我らも仲間を失ったのだ」
竜は答える
「やはり…」と男
「何が言いたい」と黒い竜
「互いに被害者であるならば、戦を始めた者は別にいる」と男
「なにを言っている?ほかにだれがいるというのか?」と黒い竜
「ではその原因を一緒に調べるのはどうだろうか?」男は白い竜をまっすぐみて話す
「‥‥‥‥つまり、貴様は我ら以外に戦を起こした者がおる、と申すのだな?」白い竜は問いただす
「猿たちに攻撃の意思はなかったが、犠牲が出ている、なぜなのか?
これは調べないといけない」
「ふむう、目星はついておるのか?」
「判断するには、まだ情報が足りない、だからここへ来たんだ」
「おおぉ、この後は何をするつもりなのだ?」
「狼のところへ」
「なんと、狼は我らより頭が固い、話をする前に胃袋の中かもしれぬぞ」
「私はこの森に育てられました、それだけで十分な理由です」
「彼らが、話を聞く保証はない」
男は返事せず、ただまっすぐに白い竜を見つめた
「‥‥くく、ふはは、貴様人間のくせに狂っておるな?」
「しかし、彼らは何か心あたりがあるようです」と先ほどの水色竜が言った
「……貴様が意見するとは、なにがそうさせるのだ」
「私が待っている間、雀の使いと話していました、
彼らは森の奥にいる顔に穴の開いた二本足と接触しています」
「ほほう…なるほど、使ってみるか」
白い竜と水色竜は男のわからない言葉でなにやら話している
どうにもいい話には聞こえなかったが、会話が終わり、白い竜がこちらを向く
「‥…よかろう。」と白い竜、だれも声を上げなかった。だが周囲の竜たちの間にざわめきが広がった
「配下を貸す、言葉は話せないぞ、そこの生意気なガキに訳してもらえ」
と白い竜は先ほどの水色竜に目配せをする
水色竜と2頭の青い竜が前に出て、男の前に来た
男はお辞儀をする、水色竜とその他の竜もお辞儀をする
「人間よ、狼どもと話したらまたここに来い」
白い竜が言った
「わかりました、では失礼」
水色竜の先導で、男達は大木の森を後にする
かくして、竜と男はともに戦の真相を調査することとなった
ワコが割り込んできたときはどうなるかと思ったが、懐が深いというか
とりあえずまだ生きている
いつのまにか月は先ほどの反対側にいた、ずいぶん経っていたようだ
危機一髪というか、なんとも不思議な展開に戸惑いつつも、男は帰路についた

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