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晴輪物語【始記】25 決意 | 晴渡計画

晴輪物語【始記】25 決意

観光

あれから数か月がたった

ワコは男と会話が普通にできるようになった

小学生のような振る舞いをする、それにしても大進化である

ただ、不思議なことに、時々大人のような発言をする

冷静に淡々と、事実を抑揚もなく、口にする、そこが純粋な子供ではなく

やはりこいつが生き物ではなく機械であることを物語る

 

そして現在、ワコはなんと先生になった

良く登校していた小鹿に言葉を教えはじめた

そして小鹿も徐々に習得し、今では二人で会話をしている

 

男の生活が変わった

朝はワコと川に行き、水浴びをする、狩りと偵察と採取をしながら隠れ家にもどる

そして日の入りまではワコと小鹿と何匹かの機械獣たちに言葉を教えた

そのあと少し剣や槍の手入れをして寝る、そんな一日だ

教えることが新たに加わった

 

さらに3つある大きめな隠れ家は病院兼学校になった

治療しながら言葉を覚える

少しづつ、にぎやかになってきた

 

男は2-3日ごとに隠れ家を移動していた

一番快適で住みやすい森の東にある川の隠れ家

水が豊富で治療に向いており、森の南にある滝の裏の隠れ家

出壁山脈の西の端にある洞窟の隠れ家

 

そして男がいない間、隠れ家を守ってくれているのは

治療から回復した機械獣の有志達だった

多いのは二足歩行ができるものだ

ワコのような熊もいるし、猿もいる、猿はジトメザルが多い

ボスを亡くしたジトメザルたちは四散し、もう群れの形を成していない

だがそれぞれは逞しく生きていて、こうして協力してくれる

昔では考えられなかった

自分が森のためにできることはなにかを考えて、治療を選んでよかったと心の底から思った

 

実は男の仕事はほかにもある

治療・偵察・戦力分析・記録(覚えるだけだが)これに加えて、森の手入れもあった

戦闘で傷ついたり、大きくかけたりした機械樹の治療である

機械獣の治療と同様、使うのは機械のパーツだ

男は治療法を確立していた

残念ながら死んでしまった機械獣や機械樹の体はほっといてもそのうち分解され捕食される

男はそれを回収し、ゴリゴリと粉砕して粉を作った

それをさらに機械樹の樹液などを加えて混ぜ、ペーストを作る

機械樹・機械獣の破片の割合を調合し、治療に使っている

機械獣には機械獣のペーストを合わせている

これは万能薬になった

ただ、患者に合うかは入念な確認が必要だ

患者に合わせたペーストを作らないといけない

失敗するとペーストが患者を食ってしまう、分解してしまうのだ

だから事前にチェックし、一番バランスの良い状態に調合したペーストを作る

どうやら相性があるらしく、相性が悪いと分解が始まる

または全く再生が始まらず、落ちてしまったりする

ある程度元の体と親和性があり、かつ治療も促進されるような調合が必要だ

その調合に一役買っているのは、機械樹の実や葉である

あまり数はないのだが、この機械樹の森には多様な種類の樹木が生えている

少量多品種というやつだ

その中で、樅木のようなでかい木がある

その木になる実は再生の補助能力が高い、だが入れすぎると分解してしまうので慎重に調合する

男はこの木を「福麓樹」(ふくろくじゅ)と名付けた

完全に神様のモジりだが、語感もいいし気に入っている

ろくが麓の字なのは、この木が出壁山脈の麓に多く生えているから

 

また付近に生息する熊や鹿たち野生の機械獣からは

山を守るように生えていることから、「門番の樹」と呼ばれているらしい

話せるようになった機械獣たちの中には、自らの記憶を言語化しだす者も出てきた

ワコもそうである

 

門番の樹はワコが教えてくれた

そしてどうやらこの森は代々熊が守っているということも教わった

なるほど、、オオヅツはこの森の守り神なんだ、、、どおりで巨大なわけだ

 

門番の樹の発音は男には聞き取れなかった

一生懸命お互いに歩み寄って話した結果、ワコが表現しているのは門番であると気づいた

だから門番の樹である

 

まず男には衝撃的だった

木に名前を付けていること、そしてその名前が種族を超えて共有されていること

男からすれば、機械獣たちはうなっているようにしか聞こえない

だが、もしかすると彼らは、会話しているのかもしれない

細い牙の竜たちも、たまたまわかりやすく発音していたから男は気付けただけなのだ

ワコや他の北の森の機械獣たちが言うには、南のやつらは言葉が汚いそうだ

あと声が大きい、けど意味わからない言葉を使ってるから何言ってるかは全部はわからないそうだ

こんなことまで感じている、さらに共有している、彼らは本当に知的生命体だ

南のやつらが大声で言葉が汚く、けど何言っているかは不明というのはおもしろい

男には、むしろ細い牙の竜たちのほうが会話している感じがした、北の森の者たちは静かすぎる

 

おそらくだが、北の森は絶妙な距離感や間合いを保ち生活しているのだろう

だからなるべく小声で生活し、音を立てず、静かに過ごす、相手との距離を保ち、相手を思う

まるで日本人の様だ

 

南は違う、おそらく彼らは、生き物と機械とにもまれている間に、彼らなりに身に着けた知恵なのだ

そうしないと生きていけない、勝ち取るものであり、自ら動くことこそが肝要である

まさに狩人である、だから攻撃が向いている

 

だが不思議だ、なぜ男にはすぐ南の獣たちが会話しているのではと気づけたのだろうか

人間の言葉に近かったような気がした、北はもはや息遣いの音にしか聞こえなかった

山というものはこうまで生態系を分けてしまうものなのか

 

男は改めて思っていた、この北の森は失ってはならない場所だ、ここは守らねばならない

オオモリノシロヌシガミにアサキリノヒノミコに、自分を育ててくれたこの森の住人達に

男は報いなければならない、これ以上北の森の民が傷つき犠牲になっていくのを見てられない

いつのまにか男はこの森を愛していた

だからこそ、治療を続け、森の番人として日々を過ごしているのだ

 

男は決意した

この森を守って見せると、そして穏やかなひとときを取り戻すのだ

幸い言葉も覚え始めている、これは絶好の機会だ

 

男は計画を立てた

まずは準備だ

軍団を作る必要がある

その前に隊長格を育てる必要があった

ではどこから探すか、もちろん3カ所ある学校兼病院からである

洞窟、川、滝、この中から隊長になれそうなものを育て上げる

男は立ち上がり、二つの月に手を伸ばし誓う

おれがこの森を守る、平和を勝ち取るのはこのおれだ

 

星の川の中に浮かぶ月は無言で彼を見つめる

やれるものなら

とでも言わんばかりに

 

 

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