晴輪物語【始記】23 駆け出し地蔵

観光

トントンガリガリバキバキゴリゴリ

男は切り株をどんどん削っていく

まるで中にいるやつが助けを求めているかのように

すでにどこをどう掘ればいいのかわかっているかのように

設計図もなしに、大胆に彫り進めていく

 

やがて大まかな姿が現れてきた

次に細かい部分に入る

顔を掘っていく

こんどは表面を滑らかにしていく

 

完成である。

短い文章で書いたが、数日かかっていた。

 

仏像の名は「駆け出し地蔵」という

見た目が今にも駆け出しそうだからこの名を付けた

狙ったのか?と思われるかもしれないが違う

彫っていくうち、どうしても根の分かれ目の処理に困り

そうだ足にしようとひらめいたのだ

用は後付け、思いつきである

だがいがいといい感じに仕上がった

全体としては2.3等身のややぽっちゃり型

顔はどこかのゆるきゃらのような穏やかなほほえみをたたえている

人間と同じような姿の像を掘ろうとしたが、折ってしまいそうだったのでやめた

男の技術力なんぞ、そんなものである

だが男は満足していた

 

別にこれにすがりついたり、頼りまくったり、おんぶにだっことなるつもりはない

ただほしかったのだ、心のおきばというか、船の錨ような、ご神木のような

ながされないように、しっかりと立っているために、頼れるものが欲しかったのだ

 

ワコは駆け出し地蔵をずっと見つめていた

 

完全に回復したワコは、今では普通に狩りに出ている

男が狩っている横で、しれっと獲物を捕らえ、食っていた

さすがは野生の動物だ、これは生態を間近で見れる絶好の機会である

 

観察しつつ、引き続き警戒・分析にあたる

大戦の現状は拮抗していた

熊一族の出現で、南勢力は一時的に出壁山脈まで押し戻された

だが南から新たな勢力が参加し、いまは攻められる側である

この新規勢力には男は驚いた

まるで恐竜のような見た目の機械獣だった

といっても大きさは狼より少し大きいくらい、人が一人乗れるくらいだろうか

ヴェロキラプトルとかいう恐竜が昔いた気がするが、それに近いものを感じる

彼らは機械獣なのだろうかそれとも生物なのか、知りたい、研究したい

 

男はこの恐竜を「細牙竜」と名付けた

口いっぱいに細い牙が並んでいる、そしておそらくこいつらは知能がある

かつ鳴き声で会話をしているように感じた、おまけにどうやら種族ごとで言語が異なるようだ

肌の色が異なり、紺色や緑など様々な種類がいるが、同じ色同士でしか行動をしない

そして音がまったくことなる、方言でもあるのだろうか

それとも暗号なのか、興味は尽きない

 

どうやら南には獰猛な種類の機械獣が多いようだ

なぜ、生物樹と機械樹が混在しているところなのに、獰猛な種類が多いのか、北部でいいじゃないか

獲物もたくさんいる、なぜ機械樹の多くない南にいるのか、食料多いんだから居座ればいいのに

 

大戦が落ち着いたら南を探検してみたいものだ

 

そして知能のある機械獣を見たのは大きな収穫である

彼らとはうまくすれば意思疎通が図れるかもしれない

 

それは細牙竜だけなのか?

その疑問を解決するために、男はワコに会話を試みた

前からこちらの言っていることを理解しているようなそぶりはあった

だから今度は意思の疎通を図ろうとした

というわけで、できるだけ男はワコに語り掛ける

さらに、言葉を教えた

りんご・き・しか・おうち・おなべ・おはし…などなど

 

教えてから数か月たつがいっこうに効果は認められない

やはり意味がないのだろうか

 

ある狩りの際、男はワコに逃げる獲物の先に回り込むように合図を送った

合図をみたワコはすぐに走りだす

その瞬間をみた獲物は反転しこちらに向かってきた

気づいた男はワコに戻るように大声を出す

獲物は木々をバキバキと折りながらまっすぐこちらに突進してくる

護衛さえいなければただの雑魚とでも思っているのだろうか、なめられたもんだ

男は新調した斧を構える

振りかぶった瞬間、大きな声と共に獲物がふっとんだ

「おはっっしいいいい!!!!!!」

 

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