男は真樹とそれを支えるオオヅツを見つめていた
白竜が男の隣に立つ
「聞くだろ?」
「頼む」
白竜は真樹の最期を男に聞かせた
森から現れた指揮官は兵士と触手を総動員した
枝という枝を切られ、引き割かれ、メキメキと音を立てて
倒れていく真樹の元に間一髪でオオヅツが駆け寄り
周囲の兵士を退け、邪魔者と排除しようとした指揮官を遠くに叩き飛ばした
その後、オオヅツが真樹を倒れないように支えていたが
核が破壊されていたため真樹はまもなく息を引き取った
死の間際に、真樹とオオヅツは何やら会話をしていたようだ
内容は聞き取れなかったようだが、オオヅツは真樹の記憶と権能を引き継いで
真樹の代わりにここに座ることに決めたらしい
その証拠に、真樹の枝葉がオオヅツから生え始めている
オオヅツほどの巨体なら真樹も十分以上に支えられるだろう
だがあの暴れん坊がこうもおとなしく真樹の言うことを聞いたことに
男は驚きを隠せなかった
そもそも会話ができない、森の決まりを守れない、他種族の主を殺すなど
傍若無人なこの大熊が、まさか森を支えるために行動するなんて…
最初に出会ったときは、男にとっての恐怖の象徴はこいつだった
だが最後には戦況を変える重要なきっかけを作り、真樹の危機にこうして寄り添い
今、共に森のために、自らが真樹の代わりになる道を選んでくれた
ただの気まぐれな災害かと思っていたが、やるときはやるようだ
こればかりは感謝しないといけない
なぜオオヅツは真樹の危機に気づいたのだろうか
北の森での戦闘中、空を見上げたと思ったら、山を登って南へ行った
あの時、もしかすると、真樹に呼ばれたのではないだろうか
会話ができないと聞いていたが、森の声を聴き、動いてくれたのかもしれない
「おまえ、かわったな…」
男はオオヅツにつぶやいた
男は真樹とオオヅツに礼をした
真樹もオオヅツも自分の身を犠牲にしてまで森を守ってくれた
残された者たちは、生き残ったからこそ、この遺志を継いで森を守っていかなければならない
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男の元には偵察隊からもたらされた現状が集まってきた
まず島全体については戦闘は終了し、残党狩りおよび事後処理の段階へ移行していた
その残党狩りだが、兵士たちが降伏したのち、のこる戦闘は降伏しないエンゲツ達のみだった
しかしこいつらは散開し、全滅させることはできなかった
ただ、今回の戦闘で彼らは相当な被害を受け、こちらもあえて積極的に数を減らすべく攻撃したため
一族としても戦力の大幅低下、回復には時間を要すると考えている
今回のエンゲツ達の立ち回りでこちらは被害を被った
今後エンゲツ達は「危険指定機械獣」として監視対象とすることとした
偵察隊による常時監視を行うことで、これ以上島に被害をもたらさないようにしていく
こういう警察というか公安みたいな組織は今後必要かもしれない
島の治安を守るためには
戦闘で荒れ果てた島は自警団や森の戦士団と新生真樹のオオヅツ様の根の協力もあり
順調に修復が進んでいる
今回かなりの戦士達が犠牲になった、一番犠牲者を出したのは常に最前線出会った猿の一族と熊の一族
そして猪の一族、次に伝令として活躍した鹿の一族と偵察で貢献してくれた雀の一族だ
さらに真樹防衛のために戦ってくれた竜の一族もかなりの犠牲が出た
またこの戦闘で各部族で犠牲者が多く、中には族長が亡くなり、長不在となる部族も出てきていた
数が減りすぎて、部族として成り立たない族も出てきていた
犠牲となった森の戦士達については、手厚く葬ることとした
さらに生き残った者たちについては、負傷者の治療や救護作業中である
川の基地は大きな病院と化し、けが人だらけである
ワコはじめ自警団やお手伝いの機械獣が走り回り、一体ずつ丁寧に治療している
次に指揮官軍団だ
指揮官を倒してから、一時的に指揮官の部品は一カ所に集められ厳重に保管していた
そして機械兵士達についても一カ所に収監している
彼らにはこの森に還ってもらい、森の知識・経験の充実に貢献してもらう
今男は犠牲となった戦士達の弔いのため、北の森最深部の朝霧の岩山に来ていた
あのボスジトメザルと男が一騎打ちを行い、エンゲツが乱入してきたあの場所である
あそこからすべてが始まったのだ
なぜここにしたか、それにはわけがある
実はこの戦いの後、戦いに際して世話になった者たちへお礼参りをしていた
その一つ、狼の王の元へ話に行った時のことだ
狼王は犠牲になったものは北の森で手厚く弔ってほしいと言っていた
なぜ南はダメで、北なのかと聞いたところ、狼王は答えた
「わしら機械の生命には始まりの地と終わりの地が決まっている、南の森は始まりの地
北の森は終わりの地なのだ、死期が近づくとみな北の森に行き死ぬ、
そして森に還り、身体や記憶や経験を森にささげたあと、新たな命として南の森で生まれるのだ
北にいるあの大猿は、皆が静かに終わりを迎えられるように、場所を作り、守っていたのだ
そして南の真樹は生命の終わりと始まりを司り、記憶や経験を森に還元することが役目なのだ
その護衛と新たな生命がちゃんと生まれる環境を整える役目として、古竜どもがいるのだ
今はどうやら真樹に変わり、あのバカ熊が変わっておるようだが、あいつ、へたくそで仕方がない
白竜が大変そうだな…やつが慣れるまではわしも落ち着いていられぬわ、まったく…」
と言っていた、愚痴だが、嬉しそうにも見えた
その”北の終わりを迎えるための場所”がこのボスジトメサルの拠点だと思っていたこの岩山である
岩山は男が岩が幾重にも重なり合い、敷き詰められているように見えた
この岩山は奥へ進んでいくと岩に囲まれたところがある、さら進むと洞窟があり
広い地下空間に出る、その先もさらに洞窟は続いていて、奥へ進めるようだったが
そこから先は男は入れさせてもらえなかった、護衛の猿に止められたからだ
どうやらここを進む過程で、機械獣たちは森に還るらしい
死ぬ間際に洞窟を通ってだんだんと還っていくということは、
すでに息絶えてしまった場合はどうするのだろうか
変わりの機械生命が奥へ連れて行った場合、そいつも仲良く還ってしまうのではないだろうか…?
などと考えこんでいると、猿の中隊長が言う
「見てればわかりますよ」
本日はその弔いの儀式の日である
犠牲となった戦士達の亡骸はこの広い洞窟の地下空間に丁寧に安置された
猿の副長が舞台のように高くなった場所から声をかける
「源の 示したる先 今ぞある 組みを解きて 森へ還れよ」
すると洞窟の奥から静かに水が流れてきた、気づかぬうちに水量は増えていき
いつの間にか戦士達の体は水の底に沈んだ
「行きましょう、タアシエ、彼らはこれで森へ還れる」
男はただ水の底を見つめていた
もしやこの水は指揮官の言っていたナノマシンでできているのか?
見た目どう見ても水だが…
ナノマシンが分解してこいつらは森に還るということか
では普段は洞窟の奥を歩いているうちに少しずつ分解されていくということなのか
よくもまあこんな仕組みを作り出したものだ…しかもあの聞いたことあるリズムの言葉、なんなんだ
源って…ミナのことか…?
これで葬式は滞りなく完了した
あとはゆっくり時間をかけて、彼らが森に還るのを待とう
待てよ?指揮官たちも同じくあれの水につけるのか?
思わず猿の副長に聞く
「いえ、あの場所は我らにとってとても清らかな場所です
あの野蛮人どもは同じ場所には入れません
確かに機能的には最適ですけれどもね…」
男はちょっと怖かった
「元々は同じ母艦から生まれたはずだから、兄弟見たいなものなはずだがな」
「ですが、今回、我々は多くの仲間を失いました、
仲間を弔う場所に原因である兵士達を入れることはできません」
ふむ…まあ理解はできる、とても感情的な話だとは思うが
それにしてもなんか、、言葉の端々に感情のようなものが宿っている気がしてならない
これはバグなのだろうか、それとも…もう生命そのものとしての感情の発露なのだろうか
この戦いが彼らに与えた影響はそれだけ重いということなのだろう
お葬式の次は、機械兵士と指揮官を森に還らせる
猿の副長に連れられて、男は北の森から出て、出壁山脈を越え、島の南に入る
そこからさらに東へ進むと広大な湿地が広がっていた
今まで気にしていなかったが南の森にもこんなところがあるとは思わなかった
ジャングルだけでなく湿地もあるようだ
北の森が整然としすぎているのかもしれない
湿地に到着すると、黒色竜が現れた
「よう久しぶりだな、ちゃんと連れて来たか?」
「もちろん、あまり使いたくなかったが、仕方あるまい、頼むぞ」と猿の副長
「ああ、おれも同感だ、だがまあ、、ここは本来終わりの地の成り損ないだからな、
何者にも成れなかった、こいつらにはちょうどいいんじゃないか?」
と黒色竜がいう、どうやら新たな生命としての自信のようなものを感じる
それにしても成り損ないとは何なのだろうか
「では始めよう
おい!兵士ども!湿地の奥へ進め!歩きずらいがすぐ終わる!さあ進め!」と黒色竜
兵士たちは恐る恐る湿地に足を入れる、ずぶずぶと足が沈んでいき、腰までつかる
「止まるな!進め!」と他の竜も叫ぶ
兵士達はどんどん湿地の奥へ進んでいく、すると兵士の一人が突然叫び出した
「ぎゃああああああ」
見てみると、兵士の手や体が溶けだしている、男はびっくりして黒色竜の方を見た
「なんだよ、言ったろ、ここは終わりの地の成り損ないなんだよ」
「もう少し詳しく!」
「さっき洞窟に行ったんだろ?
あそこから出てくる水には簡単に言えば極小の機械生物が溶け込んでいて
純度は高く、いろいろな種類が混ざり合っていて、それぞれ役割が分かれているので、
ゆっくり丁寧に分解され森に還っていくんだ
行ってしまえば生命の水といったところかな、この森の中枢にあたる
本当に大切な水だよ」
「こっちは?」
「ここはその成り損ないなんだ、だから、あっちの水よりも…なんというか乱暴な奴が多いというか
一言で言ってしまえば、あっちは仲間を優しく森に還す”仕組み”で、こっちは”捕食”だ」
なるほど…要はこの湿地全体が機械を食べる湿地だということか
だからこんなにドロドロに溶けていくんだな、さっきの神聖な雰囲気とは大違いだ
獲物が飛び込んできて湿地は大喜びなのだろう、何百体という機械兵士が湿地の泥水に溶かされていく
逃げる兵士もいるが草に絡まれ奥に引きずりこまれていく
さらに指揮官の体も乱暴に湿地に放り込まれる
特上の食事だったのだろうか、特に激しく蔦や葉や草が取り合いをしている…
なんだか気持ち悪くなってきた…
戦いは終わったのにまた阿鼻叫喚の図を見ることになるとは思わなかった…
しまいには機械鳥や機械両生類までもが出てきてバラバラになっていく
「これでちゃんと知識や経験や技術は森に還るんだろうな?ただのお食事会になっていないか?」
男は心配になってきた、見せしめでこんなことしてるんじゃない、森の情報をアップデートしたいのだ
食べ放題ツアーを企画した覚えはない
「大丈夫だよ、バラバラに食い散らかしていうように見えるが
最終的には底に溜まってちゃんと森に還るようになってる、なんだ気持ち悪いのか?くくっ」
黒色竜は笑っていた
やっと静かになり、湿地は兵士達をすべて平らげたようだ
これで森に情報は加わり、新たな力を得ることができるだろう
ふと思ったが、おそらく今回初めて森は”人型”の情報を得ることになる
これは森としては大いに役立つ情報だと思う
もしこの情報を活かして人型を新たに生命として誕生させた場合
こいつらがちゃんとゆうことを聞くのか、裏切らないのか、
どんな奴らなのかは必ず確認する必要がある
「安心しろ、その辺は真樹様がどうにかしてくれる、何なら話をしておくといい
きっと新たに生まれる人型はお前を模倣して生まれてくるだろうからな、
お前が”人型族”の族長になるんだよ」
黒色竜は男の心を読んだかのようにそういった
「人型族…」
その発想はなかった、単に新たな生命としてただ生まれてくるだけかと思った
族長になるとはどういうことか、勝手に量産されて管理しろと言われても困る
とにかくこれで諸々の処理は終わった
あとは今後どうするかだが、男には考えがあった
その考えを整理しつつ、聞きたいこともできたし、
話し合うため、真樹の元へ向かった

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