「晴輪国か、よい名じゃな、日和の大神樹には劣るがな、はっはっは」
ご神木は相変わらずである
オオヅツとご神木はほぼ一体化していた
男はオオヅツと樹がくっついたから、オオヅツキと呼んでいた
だがそれだとなんか言いづらいので、オオツキと呼ぶようになっていた
なんか、かっこいいだろ、オオツキ様って
男はオオツキ様もといご神木に囲炉裏会議や探検隊設立、そして晴輪国誕生を報告に来ていた
もう早速各調査団には行動開始をしてもらっている
囲炉裏会議もそれぞれ活動を始めているようだ
見えないところでまさにそれぞれの歯車が回り始めた
これから楽しみである
「まさかこの島が国を名乗ることになるとはおもわなんだ」
ご神木はたいそうお喜びになっている
「責任は重大じゃ
確かにこの世界に同胞はごまんといるだろうが、それぞれが我々のように友好的とは
限らないし、そもそもどんな風に進化しているかもわからない
おまけに今後も平和が続くとも限らない、ただこの勝ち取った平和を保つためには力が必要である
その力の源として、国を名乗るのは、わしは悪くないと思っている」
すんなり受け入れられて男は拍子抜けした
小言の一つでも言われると思ったのだが…
そして男はもう一つご神木に報告があった
祭りの件である
「ほほう、してなにを思いついたのだ?」
「大当(おおあたり)だ」
「は?」
大当とは男が考えたいわゆる格闘技の大会である
本当の呼び名は「オオツキ前当たり場」
略してオオアタリである
目的は2つ
ひとつは「格闘技術の向上」
ひとつは「歴史の保存と継承」
大神樹の前で戦い、勝利することで
あの戦争でご神木を救ったオオヅツに認められるような戦士になってほしいのだ
そしてオオヅツがこの島とご神木を救ったという歴史を守り、語り継ぎたいのだ
ルールは簡単
勝利条件は”相手の足の裏以外を地面につけたら勝ち”
これだけである
このルールにしたのには理由がある
まず実践的な体術としての格闘技術を身に着けてほしいため、武器・道具の使用は禁止
素手で勝負してもらう
参加資格は島の住民ならだれでも参加可能だ
北の森と南の森でそれぞれ予選を行う
これを勝ち抜いたものがご神木の前で当たる
だからオオツキ前当たり場という
戦う場所のことを「当たり場」と呼ぶ
当たり場は森の入口から始まりオオツキの前が終着点となる
まず予選は北と南それぞれ「森の口」(森の外縁部)から始まり、
勝ったら奥へ進んで「森の中」次に「森の上」の3戦で当たる
ここを勝ち抜けば次は二次予選でご神木の近くを流れる川
男が初めてご神木に会った時
なぜか下りたほうがいい気がすると乗っていたワコから降りたあたりである
この「川の下」→「川の上」の2戦で当たる
ここで勝ち抜けば次は準決勝で「場の下」「場の上」で当たり場
場とは川を上がって、当たり用に少し整えた広場のこと
厳密に言うと、戦争時の戦場後である
ここを越えると次は決勝戦
決勝はちょっと趣向を変えて「山登(やまのぼり)」で出壁山脈を山登り対決
北の森側から登ってオオツキ様の足元にたどり着く速さを競う
次に「樹持(きもち)」でオオツキ様の前で総当たりで当たってもらい
勝者が「筒頭(ツツガシラ)」の称号を得る
なぜ優勝者を大筒と呼ばないのか
初代大筒はもちろんそこで樹になっている英雄のことなので
初開催ながら、初優勝者は2代目大筒を名乗ることとなるが
名乗ったところであのオオヅツの強さには値しない
だがオオヅツの前で優勝することで、オオヅツに認められるということになる
優勝者は筒頭と呼び、要は大筒衆の頭目としての名誉が与えられる
そして次の大当たりまで、島全域の守護につきながら、技術と歴史をみんなに教える任務に就くのだ
また「山登」は戦争時にオオヅツが突然戦闘をやめ、山脈を登り始めたことからきている
殴り合いだけでなくそういった別の角度からも選別ができて男も見ていて面白いのだ
次に「樹持(きもち)」はオオヅツが指揮官に倒され、息絶えるところを樹を抱えて、
文字通り樹の皮一枚でその命を支えたことに由来する
これはご神木の前で行う審判付の決勝戦である、総当たりで思う存分戦ってもらう
各当たり場で、勝って次へ進めた時、そのものには通過した当たり場の名前が階級として与えられる
例えば初戦である森の口で勝てば、そいつの階級は「森の口」である
負ければ階級はなし、名無しである
次の森の中で負けてあきらめればそいつは森の口が最終階級である、
また次回は森の中から始められる
ただし次に進めず森の中で負けた場合は、その次は森の口からやり直し
一回勝てば次の当たり場に行っていいのか?
そんなものはいちいち数えない
決勝以外は審判がいない
自分で戦い、次に行けると思ったら次の当たり場へ進めばいい
ただしさすがに森→川→場の間には門番兼審判がいる
門番に自分の勝ち数と誰と戦ったかを報告して初めて次の戦場へ行ける
嘘ついて上に来るやつがいるのではって?
そりゃいるだろうさ、だから雀の監視がいる
戦う際は①名乗る②礼③開始④終了、礼
の流れだけは守ってもらう
雀たちはその広い視野で全参加者を見張り
嘘つき・ズルを門番に報告する
そいつが来たら失格にすればよい
もちろん次からは森の口から初めてもらう
嘘つきはこの島に不要である
「大当」とは倒れ行くご神木を支え、代わりに神の樹となったオオヅツの武勇と心意気を讃える祭りである
早速第一回を開始した
戦争が終わり、季節が一回りした、ある新緑の季節のことである
北の森、南の森の入口(外側)で最初の戦いが始まった
島中の自称猛者たちが各々目があった相手と挨拶をかわし名乗る
そして礼ののち、殴り合いが始まった
種族も合わせているわけではないので実に興味深い
そして実はこの大筒祭は以下の皆さまにご協力いただいている
■大筒祭運営委員会委員長
晴渡探検協会副長 ワコ様
■運営委員会監視部(当たりの監視)及び運営委員会審判部(門番・山登&樹持審判)
中央囲炉裏会議直轄「棟」(情報収集組織)所属の雀族と狼族の皆さま
■同記録部(当たり結果の記録、不届き者/違反者の記録)及び
■同文化部(大会の宣伝、結果記録や技術・歴史教育)
中央囲炉裏会議直轄「座」(プロデスクワーク)、「石」(教育)と猿族の皆さま
■同警備部(治安維持、周辺警備)
日和領竜族の皆さま
そしてここで新たな問題が発生した
みな、名乗る名前がないのだ
男は衝撃を受けた
やっちまった、なんも考えていなかった
というわけでとりあえず森の口で番号を割り振ることにした
急遽記録部のお猿さんたちが手伝ってくれた
危ない危ない
喧嘩が始まり、森は賑やかになった
当たりは十一日間におよび、決勝第一回戦の「山登」は十二日目に行われた
狼族が審判と監視を引き受けてくれた
決勝進出者は6名だった猿2、熊2、猪1、狼1、つよそうな竜族はプライドが高いのか参加していなかった
山登は最下位の1匹が脱落することになっている
北の森のまさに戦争中にオオヅツが吠えていたあの場所から、一斉にスタートする
スタートダッシュに成功した猪が一気に距離をかせぐ、その後から狼、熊、猿と続く
猪が麓にいち早く到着、しかし山が登れず苦戦、その隙に狼が高速で登っていく、熊がその後を追う
猿は遅れている
狼が最初に山頂についた、狼王もご満悦である
続いて熊がきた
猿と猪は遅い
ここで今度は下りである
狼と熊が先を争って下っていく
中腹当たりに差し掛かったとき、高速で狼と熊をはじきながら追い抜いて行ったものがいた
猪である、どうやら下りは強いらしい
そしてよく見るとその背中には猿がくっついている
別に禁止ルールはない
狼と熊は怒り狂い、猛烈に追い上げる
ちなみに熊と猿は二匹ずついるが、熊①と猿②は例の渓谷経由で
山を越えようとしてキノメヅに捕まったため警備の竜族にばれて反則負けとなった
「座」より救助隊が出て渓谷は大騒ぎだったようだ
つまり残るは猿、猪、狼、熊の4者である
4者とも北の森出身のため、南の森は縄張りではない
密林に苦戦しながら走るが
以前住んでいた狼は若干有利である
狼王もニッコリだ
結局、ゴールのオオツキ前当たり場にたどり着いた順位は
1位狼
2位熊
3位猿
4位猪
であった
ほぼ自力で走っていない猿は猪の怒りを買い、ゴール後に乱闘騒ぎとなった
収集がつかないため、本来は脱落者が1匹でるが今回はなしで
決着は樹持の大当たり場で執り行われることになった
初回から大荒れである
結局初めての決勝戦は4者で行われることになった
本来ならその場で決勝が始まるのだが
事実上の種族間決戦となり、各種族の長から運営へ観戦希望の使者がたくさん送られてきたため
後日、晴天の日、日の出の時刻に行うこととなった
この日は綺麗に空が晴れ、朝日もにこやかに顔を出した
各種族の長は護衛や一族みんなを連れてご神木の前の広場へ集った
なんと各種族のほぼ全員が集合である、出場者以外の一族もみんなきていた
開始前、血気盛んな種族同士のメンチ切り合いから始まり乱闘騒ぎになった
さすがあの戦いを生き抜いただけはある、力が余っているのはよいことだ
乱闘は警備隊長の白竜が一喝し場は収まった
どうやら喧嘩はこの国の名物になりかけている
大当たり場は整備されているといっても草木を取り除いたただの野原である
多少凸凹していていかにも野戦場といった感じだ
もっとも取り除いたのは運営ではなく戦争中にここへ攻め込んできた機械兵士と指揮官どもである
いたるところに戦争中の傷跡が残る古戦場に訪れた各種族たちは過去を思い出し急に静かになった
それはワコが開始の遠吠えをする前に、黙祷を挟んだほどであった
樹持は4者総当たりの決勝戦である
相手の体力とかコンディションとかそんなものは一切気にしない
第一戦のカードは猿対猪だ、ここは瞬殺で猿の勝ち
猪の親分はお怒りである、一方猿はすました顔をしている
第二戦は狼対熊である、実にいい勝負だったが熊の勝ち
狼王はしょんぼりしていた
第三戦は猪対熊、第四戦は猿対狼、第五戦は猪対狼と続き、、
最終的に全員と当たった結果の順位は以下である
1位熊
1位狼
2位猿
2位猪
なんと熊と狼が2勝ずつ、猿と猪が1勝ずつのため、並んでしまった
こんなことあるのだろうか
これにはさすがの狼王も困惑、ワコも困惑し男の元にきてどうするか聞きにきた
男は決着するまで殴り合ってもらうように言った
最終戦である熊対狼と猿対猪は同時開催となった
日の出から始まった決勝戦は日の入り直前まで続き
二つの戦いは広場から森の中まで移動していき、観客もぞろぞろとそれについていくという異様な光景だった
最終的に、森の中で巧に樹を使い、さらに夕日をうまく使って立ち回った猿が猪に勝利した
そして熊と狼は、お互いボロボロになり、足が震えながらもかろうじて立っているような状態の中
一瞬の足元の崩れに油断した狼を熊が叩き、熊の勝利となった
熊族の長は大喜びである
やはり神となったオオヅツの後を継ぐ大役は熊であるべきという思いがあったのだろう
優勝者の胴上げが始まり、コロコロと山盛りの熊たちの上を勝者が転がる
しまいには狼や猿、猪も参加し勝者を祝った
お互いに文字通り朝から晩まで全力を出して戦ったからこそ、ここまで晴れ晴れとした顔ができるのだろう
男はこの時初めて思った、こいつら笑えるんだ、と
夕日が沈んで暗くなり、胴上げも落ち着いたころ、不思議なことが起きた
ご神木から光が漏れ出したのだ
男は驚いた、樹が光ったと
後で分かったのだが、これはいわゆる機械蛍というやつらしい
ただ、こいつらは実に気まぐれで、主な生息地は終わりの洞窟だそうだ
ここに現れたのは偶然らしい、
だがご神木や周囲の森から機械蛍があふれでて、夜の森はにわかに明るくなってきた
そしてこの蛍、明るめである
オオツキ前の広場は明るく照らされ、またお祝いが始まった
そして誰が始めたか、みんな各々踊り始めた
男も楽しくなってきて、慌ててちょうどいい木の棒を二本拾ってきて
ワコの背中を叩き始めた
カンカンという子気味よいリズムが音頭となり
皆が合わせて好きなように踊り始めた
やがて男の叩く音頭を猿が真似始めた
音はオオツキ前から南の森一帯へ広がり
決勝に出られなかった戦士達や当たりにでなかったものたちも徐々にオオツキ前に集まってきた
皆思い思いに踊りはじめた
ゆらゆら踊るもの、走り回るもの、樹にぶら下がるもの、跳ねるもの
音頭はどんどん広がっていった、森を越え、湿地や藤森まで伝わり、
山脈の南一体で皆踊りだした
音は北の森まで伝わりまた北でも踊りが始まった
踊りは一晩中続き、また次の日の出まで踊った
そして二度目の日が顔をだした時
あらためて優勝者に「筒頭」の称号が与えられた
そして男はこの4名に名前を与えた
1位の熊は”筒頭”「日久万(ひぐま)」 朝日に始まり朝日に終わる祭りの優勝熊
2位の狼は”樹持”「荒気志(あらけし)」 その圧倒的な気迫に敬意を
3位の猿は”樹持”「澄顔(すみがお)」 決して慌てず冷静で賢い戦い方を表して
4位の猪は”樹持”「走火(はしりび)」 その力強い走りと勇敢さを例えて
4名は大喜びしそれぞれの種族に迎えられながら各々の領へと帰っていった
ここに第一回大筒祭は大盛り上がりの中でお開きとなったのである
祭りのあとにあの夜通しの音頭について監視の雀から報告があった
オオツキ前の踊り、南の森の踊り、藤森や兵食瀬、落船の踊り
さらに北の森の踊りは、オオツキ前から離れれば離れるほどリズムが緩やかになり
ゆったりとした音頭になっていったそうな
そしてもう一つ
渓谷にいるはずのキノメヅがみな、南の森に出てきていたらしい
雀によると踊りが聞こえたあたりから、吸い寄せられるようにぬるぬるうごきはじめたそう
踊りが終わるとまたぬるぬると渓谷に戻ったそうで
どうやらやつらにもこの音の粋というものがわかったようだ
祭りは大盛況だった
そして感動的だった
男はこの夜の出来事を忘れることはないだろう
この祭りは「大筒祭(オオヅツまつり)」と呼び
踊りは「カンカン踊り」と名付けた
そして後日各地で聞いてみると
南ではコンコン踊りとか、カンコン踊りとかいわれていて
音の聞こえ方が若干異なっていたことがうかがえる
北ではソーソー踊りと言っていて、なぜそんな音に聞こえたのか不明である
まあ、意図せずに地域性のある踊りが生れたようで男としては大満足だ
次は葉の色が赤くなる季節にこの祭りをやろう
戦の御霊の鎮魂と戦闘技術向上と島の一体感の醸成ができる
この祭りこそ、長く残すべき島の文化となったのだ
大満足のまま晴渡館に帰り、泥のように眠りにつく男
ちょうどその時、だれもいなくなった南の「始まりの森」の奥から
ある新しい生命が芽生えたのだった


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