男と指揮官の切り合いはすでに長時間に及んでいた
北の森を駆け巡り、森の戦士達と兵士達の戦闘の間を走り抜けながら
ずっと切り合っている
男はずっと驚いていた
心得は特にないが、この刀を手にしてから、ずいぶんと動けている
この指揮官の剣は一撃が重く、最初は受けるたびに体がみしみしとなっていた
だが今はそうはならず、なぜか受けきれる、それどころかいなせるまでになっている
自分にそんな技量があったとは思えない、この刀の力なのだろう
とはいえ決着をつけられなければその技量も全く意味がない
機械と人の最大の違いは疲労度だ、こいつは機械だから疲労というものを知らない
対する男は先ほどから休みなしで切り結んでいる
速くしなければ、しかしこいつは強い
指揮官の剣は男と同じで片刃の反りがある刀だ
それを片手でぶんぶん振り回している、早い太刀筋で数を叩きこむ戦い方
つけ込む隙があるとすれば割と大振りなところだろう
対して男は両手で持ち、守りつつ隙をみて切り込む形
だが切り込むと指揮官は守りながら後ろに下がってしまう
どうにかして動きを止める必要があるな…
まあ、逆にいえばやつは懐に入られないようにしている
つまり入れば勝てる見込みはある、とにかく色々試してみよう
都合よく霧が出てきた、紛れ込んで戦う
男が霧の中から切り込むも防がれる
機械猪に突撃してもらって、その後ろから刺突を繰り出すも、失敗
猿軍団に囲んでもらい、数で勝負も失敗
木々に隠れつつの戦い方も失敗
雀の体当たり
これは効いているようだ
上空から勢いをつけ高速で突撃する小さい雀は
見えたとしても受けきれず小さくとも体にダメージを負わせられている
やはり必要なのは飛び道具なのか?
だとすれば考えようがある
先ほど大熊に食われたエンゲツがもっていた手榴弾2つ
最悪自爆テロでもしてやろうと思っていたが、もっとましな使い道がありそうだ
これならやつのスキを作れるはず
問題はいつ仕掛けるかだ
あと心配なのはこの手榴弾、男が知っている形と異なる、抜くピンがない
そして2つとも微妙に形が違う、、、
「技の数だけは誉めてやろう、まあ決まり手に欠けるがな」指揮官は余裕だった
「そりゃどーも!品数の多さがうちの売りなんでね!」
男は頭をフル回転させながら気取られないように必死で返事をする
「せっかくたくさん実演販売してくれているところ悪いが、そろそろ安物小物には飽きてしまったな
なにか一押しの商品はないのか?」
剣を持たない方の手が口に合わせ饒舌に語りだす、明らかにナめている
「もちろんご用意しておりますとも!もう間もなくご覧にいれます!」男は言う
「楽しみだなあ!もしかしてその背中に下げている手榴弾のことかなああああああ?」
指揮官はすべて見透かしていた
あざけるような顔をこちらに向ける
所詮はロボットなので顔を変えることはできないはずだが、今の男には
まるであいつが人間のように見えていた
「くそ…」男はつぶやく
「ははははははは弱い弱い弱いぞ人間!なにがなめるなだ口だけではないか!
貴様は最初にあった時からずっとそうだ!機械の獣の力を借りて戦うことしかできず
その手榴弾はあの小猿がもっていたものだろう?情けないぞ人間!」
指揮官は言いながらさらに剣を男に叩きつける、さらに重くなる一撃が
男の心にまで響いてくる
「教えてやろう人間、その手榴弾は<暗知捕捉型投擲爆弾>と言ってな
安全ピンはない、代わりに爆破対象を強く考えながら投げろ
そうすれば対象のそばについたときに自動で爆発するようになっているぞ
まあ、それは対人手榴弾で、機械の体の私に効くはずはないがな!あはは!」
指揮官はどうやら完全に男をなめ腐っているようだった
たしかに、エンゲツがもっていた手榴弾は小型の機械獣のような貧弱なものには効いていたが
猿が奪って投げても機械兵士には効いていなかった
「人間は手先が器用だ、想像力もある、私を作り出したやつらもそうだった、だがどうだ?
船が墜落したとたんに外の空気にやられ、機関停止したら生命維持もままならず
数週間と経たずに全滅した、なんと弱弱しい、つまらない生き物なのだ」
「つまらなくはない!決して貴様らにはないものがあるんだ!」
「なんだそれは?どうせ夢見る力とかそんなところだろう、くだらないぞ?
この島の機械の獣たちもそうだ、生物の真似事なぞして何になる?
我々はこの体、この船こそが最上の形であり、最高の素材なのだ、今更他の模倣などして何になる」
切り合いながらいつの間にか川の近くまで来た
男はここで一か八かの賭けに出る
いずれにしろ、何か手を打たねばどのみち全滅だ
男はあの川に、自分の運をかけることにした
「模倣じゃない進化だ!
指示待ちしかできないてめえとはちがって、あいつらは自分で進化したんだ!
普通機械はそんなことできない!
けど長い年月を経て、その手段を会得したんだ!
そんなことてめえはできるのかよ!」
「この形を維持することこそが最上の手段だったのだ!正しい選択をした!」
「ああそうかい!これでもくらえ!」
言いながら男は手榴弾を投げた、爆発で指揮官が吹っ飛ぶのを想像しながら…
バーーン!!
手榴弾が指揮官のそばで爆発した
爆風と破片が弾丸のように四方八方へ飛び散った
樹の影に飛び込んでうつぶせになっていた男にも飛んできた、耳鳴りがする
男は指揮官を見た
やつは無傷だった
こちらを見ながら口が耳まで届くくらいの笑みを浮かべている
「だから言ったろう!効かないと!貴様はその辺の人間よりも想像力に欠けるな!」
「いいや俺が正しい!くらえ!」
男はもう一つの手榴弾を投げた
「だから効かないといっ…
手榴弾が指揮官のそばで爆発した
だがこの手榴弾は爆弾ではなかった、破片が飛ばず、爆風もなく
代わりに凄まじい破壊音と甲高い高音が響いた、音響手榴弾だ
指揮官は爆音を避けるように頭を抱えて伏せた
その瞬間男は川に飛び込んでソゲキンギョを2匹手でつかんだ
音が鳴りやむと指揮官は立ち上がった、多少驚いたようだ
だがまた男を見るなり笑い出した
「はは…あはっはははは!なんだこんな隠し玉もっていたのか、音響とは!
首から上はただの的ではなかったようだな!さあもう終わりだ死ね!」
指揮官はすごい速さで川を上がった男の目の前に立ち、剣を振り上げた
その瞬間男は右手のソゲキンギョを指揮官の胸めがけて強く握った
バコン!という音と共にソゲキンギョから弾丸魚が発射され指揮官の胸に命中
弾丸は貫通した、胸の装甲がはじけ飛び、中の真っ赤な結晶が割れ、飛び散った、これがやつの核か
これでやつの急所は破壊した
………
「もぉうおわりかああ??」
指揮官はまだ立っていた
「だから単純なんだよ、おれの言うこと鵜呑みにしやがって、確かに場所は教えたが、
<ここだけだ>とはいっていないぞぉおおおお?」
男を見下しながら
大いに人を馬鹿にする言い方で皮肉たっぷりに指揮官は言った
「嘘つきだもんなお前」
「えっ?」
男は左手のソゲキンギョを自分を覗き込む指揮官の口に思い切り突っ込み、喉の最奥で強く握った
籠った爆音とともに、指揮官の前頭部がはじけ飛び、頭の核があらわになった
「なん…なっ…あっ…ああ…」
頭脳の一部も一緒に吹っ飛んだ指揮官はよろけながらも立ち直り、剣を振り上げる
「きええええええええええええ!!!」
「あああああああああああああああああ!!!!」
男は刀を振りあげ指揮官の頭の核めがけて思い切り振り下ろした
一瞬男の刀が早く、むき出しの頭の核を両断し、そのまま首の骨、そして胸の核も切った
背骨まで切り下ろし、あと少しのところ、骨盤上部を過ぎたあたりで、刀が折れた
指揮官は膝から崩れ落ち、かろうじて倒れないようにするので精一杯のようだった
「なぜだ…なぜ……」
「人間と機械の違いは今に満足しないことだ、探求心があることだ!」
「はっ…はあ?」
「てめえは船にのこり、形を保つことに専念した、だがここのやつらは外にでて、
新たな生き方を探り、それを見つけた、探求したんだよ!
今に満足したら、その時点で死ぬんだ、止まるんだよ!だから探し続けるんだ!外にでるんだ!
同じところに居続けて、何もしなかったら、どんどん衰えていくだけなんだよ!
狭いところでいきがっていても何にもならない!世界が狭くなるんだ!
お前は保っていたと思っているけどな、お前の世界はそれから縮んでいったんだよ!」
「なんなんだ貴様…なぜ私が嘘ついているとわかった…?」
「お前初めて会った時おれのこと騙したろ、だから嘘ついていると思ってたんだ」
「だからってなんで頭にあると思ったんだ…」
「これまで俺が何体の機械獣や機械樹を治療してきたと思ってるんだ?
今までの治療経験から、場所は頭か胸のどちらかにしかないのは知っていた
核は多くても2つまでで、3つ以上のやつは存在しない
山の上の狼も2つだった、あんな数万年生きてきてる化石ですら2つだぜ?
てめえがそれ以上持つなんてありえないとおもってた」
「その…魚は…」
「ソゲキンギョっていうんだ、こいつ獲物をとる時に弾丸代わりに魚を飛ばすんだぜ
へんなやつだろ?こいつがこの川にいるのは知ってた、二匹つかめるかは賭けだったけどな」
「そんな…いるかどう…かもわからない魚に賭けるなんて…」
「最初はあの手榴弾を使うつもりだったが、ばれてたからやめた
他の方法じゃないといけないと思ってね、でも一個は音響爆弾で逆に良かったよ
おかげで隙が作れた」
「な…意味がわからん…計画性が…なさすぎる…」
「それが生きているってことなんじゃないか?」
「は?」
「確かに計画や準備は必要だ、だが面白さってのはそこからは生まれないんだよ
ガチガチに頭の中で固めていく人生はつまらないだろう、流れに身を任せる時や、直感を信じる時
気の向くままにやってみるから、思いもよらないところで出会うんだ、
予想外なことや新しい知識や経験が増えていくから
生きるのはおもしろいんだ」
「あ…だめだ…おまえ…おれはこんなやつに…」
「そうだな、まあそう気を落とすなよ、ちなみに、俺が勝ったわけだが」
「もう私は消えるだけだ…結晶を破壊されたら…」
「結晶を破壊されるとどうなるんだ?」
「機能停止す…る」
「他の機械に載せ替えても?」
「私の場合は自律行動ができるように独自のプログラムを長い年月をかけてくみ上げた
それが破壊されたから、もう載せ替えてもなにもできない」
「ふーん、、でもその知識は消えないよね?」
「な…にを…する気…だ」
「森に還ってもらう、森の知識の一部となり、この森の礎になれ、
もちろんお前がもう悪さできないようにその辺の能力は完全破壊したうえでだけどな」
「どういうことだ…」
「一言で言えば、弱肉強食ってやつだな、
お前は船を保ち、散っていった機械をまた取り込んで一カ所に集めることで、
いってしまえば一つの大きな生命になろうとした
ただ、この島の機械生命たちはすでに独自の大きな生命の輪を作り上げている
要は大きな生命同士の生き残り争いに、お前は負けたんだ」
「負けたのはその生命の輪とやらにではない…貴様の…イレギュラーに負けたのだ…」
「まあどっちだっていいじゃないか、負けは負けだ、あきらめて、森に還れ、あの船も兵士も同様だ」
「もう私は消える、あとは好きにしろ」
「最後に何か言い残すことは?」
「散り際にかっこつけて何になるのだ…取り込むのならこの私を活かしきってみせろ」
指揮官はギシギシと音を立てて倒れた
衝撃で頭は転がって、核や部品が飛び散った
男も膝から崩れ落ちた
勝った…勝ったんだ!
雄叫びを上げようとして立ち上がったら
急に視界が暗くなり、その場に倒れた
これ以降はワコなどから聞いた話である
指揮官が倒れたことは、機械兵士にもすぐわかったらしい
突然兵士たちは降伏を申し出た
猿軍団が全員を捕獲し、一カ所に集めた
また状況の確認のため、森の情報網を利用して島中の状況に努めた
結果、北の森は森の戦士側の勝利
南の森も竜族たちの勝利だった、兵士達が突然降伏を申し出たのは北と同じだった
大勝利…と言いたいところだったが、一部現状が把握できない場所があった
真樹の周辺である
ワコの指示で雀と鹿が島中を回り
さらに森や竜族も協力して現状の把握に努めた
結果、現状が把握できた
真樹は指揮官に文字通り八つ裂きにされ、根っこから引き抜かれかけた
そこへ山を越えてきたオオヅツが指揮官を遥か遠くへ叩き飛ばし、兵士たちも敗走
真樹は文字通り首の皮一枚でつながったそうだ
だがすでに戦いで消耗しており絶命は時間の問題だったという
その後、真樹の最後の指示で、北の森へ救援に行くように言われ、オオヅツと真樹を残し北へ向かった
北では降伏しないエンゲツ達の残党狩りが始まっており、
南からの増援でこれを鎮圧、戦いはここに終了した
男はこれを数日後にワコから聞かされることになる
指揮官を倒したあと、男は倒れ、いつもの基地に運び込まれたようだ
ワコ達は機械の治療は男から学んでいたが、生身の人間の治療方法は全く分からなかったようで
男が起きた時には、全裸で体中の隅々まで機械生命治療用の金属ペーストが塗りたくられ、
機械樹の皮や草花が全身に張り付けられて、さながら華やかな棺の中身のような飾りつけで
まるで死人ではないかと男は寝起き早々突っ込まざるを得なかった
しばらく体のかゆみが止まらず、男はぼりぼりかきながら痒みと戦う羽目になった
痒みも落ち着いたところで、ワコから話を聞き、男は真樹に会いに行くことにした
雀や鹿に偵察に行ってもらったが、どう表現していいのかわからないとのことだ
翌日、男はワコに乗って自警団や戦士達とともに北の森を出発
途中竜族と合流し真樹の元へたどりついた
真樹を見た時、男は正直関心していた
そこには、倒れかけの真樹の隣で、懸命に真樹を支えながら、
横でともに眠るオオヅツの姿があったのだ

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