晴輪物語 5 ないふ

観光

男は起きる。朝日と共に。

かろうじて1つだけの太陽に感謝する。

全く異次元の世界でなくて本当に良かった。

黒い太陽とか赤い月とか、白い海とか骨の生き物とか悪魔とか

本で読み、動画で見て、映画で感じたあの世界に本当に来てしまっていたら

おそらくその場で自ら魔物に食われに行ったかもしれない

そんな世界ならいっそあきらめもつくだろう。

そこまで振り切った世界なら、あきらめて死ぬか

それとも歯を食いしばって生き抜こうとか

己の感情もどちらかに振り切ってしまったことだろう。

そっちのほうが幾分楽である。

 

それと比べて何なんだこの世界は。

異世界であることは間違いない。

なんといっても月が二つある。

もうおかしい。狂っている。

他には金属製の植物が生えている「だけ」だ。

その他はどこを見渡しても深く青い海、緑の森林、空はさわやかな青で

鳥の声すらも聞こえる。

こんなのは俺の知っている異世界じゃない。

中途半端だ。ふざけるな。

せめて、どちらかに振り切っていろ。

身の危険を感じるような鬼気迫る異世界か

下らぬ悩みなど忘れてどっぷりつかれる快楽の世界か

なんなんだこの中途半端にリアルと混ざった世界は気持ち悪い。

これだからよし頑張ろうでもなくもうだめだ…でもなく

堅実に日々を生きようと思ってしまうではないか。

なんなんだこの落ち着きは、俺のワクワクを返せ。

多種多様なコンテンツを消化してきた現代人をなめるなよ。

多少の名作では驚かないぞ。

それなのになんという地味な刺激の世界だ。

 

トマトが金属でできている…?弱い!

 

さて、ひとしきり悪態をついたところでようやく男は落ち着いた。

あれから数日が経ち、男はこの湖周辺を住処としていた。

 

洞窟の周辺における水・食料調達ルートは完成し、生きる算段がついた。

ど素人でも行けるものだな。

 

残る課題は寝床が粗雑なところである。

適当に葉っぱを積んだだけのもので、寝心地はよくない

 

食事は水と木の実とキノコなどだが時々果物も見つかる。

何より猛獣がいないのは実にありがたい。

だからこんな平地で生きていけるのだ

 

こんな愚痴がでるなんてずいぶん余裕なことで…

冷静になった男は少し後悔する、フラグだったらどうすんだ

 

そして例のトマトもどき、もとい「メカトマト」とでも名付けようか

この手の植物は結構周辺にあることが分かった。

トマトだけではない、木の実もそうだ、そして木もや下草、花もちょこちょこと金属製が混じっている。

共通点は見た目ではわからないことだ

本当の植物ときわめて似ている、だが触ってみると少し硬いというか、違和感があるのは確かだ

ただ弾力がありしなやかで、繊細な美しさすら感じる。

 

驚いたのはこの金属の花には虫が止まること。

花の蜜をとる蜂のように、止まる虫がいるのだ。

こんな観察までできるようになった。大きくなったものだ。

 

この金属の植物たちの生態はまだわからないことだらけだ

しかし、現時点で分かっているのは、どうやらこの金属植物たちは

同様に金属昆虫と共生していて、ナマの植物(?)と喧嘩することもなく

普通になじんでいることにも驚いた。

 

ナマの木に、金属の蔦が絡まっていたり、お花の群生地の中に金属の花がおんなじ顔してまぎれていたり

なじみすぎている。不思議すぎる。

 

飛び立ったメカ蜂を金属の木で叩き落としたことがある。

激しく潰れてしまったため詳細は確認できなかったが、限りなく蜂に近い生物だった。

羽は金属の糸で編まれたような薄さで、足も体も蜂そっくりの色だった。

だが中は金属らしい無機質な銀色というか鉛色で、こいつにも小さい種のようなものがあった。

この種、種類によってはいくつかでてくる。

サイズとは関係ないようだ、同じ蜂でも1つのやつもいれば2つのやつもいる。

 

さっぱりだが、男はこの種のことを「核」と呼ぶことにした。

心臓のような役割なんだと勝手に理解することにした。

 

一応、核は住処にため込んでいる、金属の実からも虫からも取れる。

なにに使えるのかは不明だがとりあえずため込んでおく。

生きるためには研究をしなければいけない。

何が食えて、何が食えないのか。

 

と同時に男はこの世界に興味が沸いていた。

金属と自然が共存している世界があるのかと。

金属のくせに生きているような振る舞いをするのはなぜなのだろう?

本当に生きているのだろうか

疑問は尽きない。

くだらないことを考えるようになったのは、サバイバル能力がついて

ある程度生きていけるようになってしまった余裕からだろうか。

 

などと考えているうちに魚が釣れた。

朝飯は焼き魚と木の実である。

男は手作りのナイフで魚を手早くさばき、支度を始める。

 

そう、金属の植物には思わぬ使い方があった。

 

男は拾った金属植物の太めの枝を杖のようにつきながら食料を求めて散策していた。

そこにサボテンのような分厚い葉の植物がいた。

リュウゼツランかとおもったが折れた葉の断面を見ると金属植物だった。

ずっしりと重く、ひんやりとしていた。

 

男はひらめく。

これでナイフを作れるのではないか。

 

杖を振り回し、金属リュウゼツランを殴る。

折れた葉を広い、湖にもどる。

なるべく目が細かくて平らな石を探す。

見つかったら、それで金属リュウゼツランを研ぐ。

そう、ナイフを作ろうとしたのだ。

 

以外と繊細なのか男が不器用なのか、うまく葉がつかない

ちょうどかまぼこの断面のようになっているため、なかなか研ぎずらい

男は先ほどの小さい金属リュウゼツランのかけらを取りに戻る。

 

そして役立たずの平たい石の上に、長めに折った金属リュウゼツランの葉を置き、

小さい金属の葉をかまぼこの丸いほうの筋っぽいところにそっと置く、そして杖でたたく。

 

キーンと甲高く響く音とともに、葉が縦に割れる。

割れた部分は刃のように鋭かった。

歴史の教科書でみた「黒曜石」なる石はうまく割ると鋭い刃のように割れる。

石器時代から使われていた原始時代のナイフだ。

 

歴史好きでよかった…と昔の自分に感謝する。

これであとは刃を整えるだけだ。

 

一日中がりがりと研ぐ。

懸命に研いだ結果、いびつだが、刺身包丁のような細長いナイフができた。

あとはその辺で拾ったナマの蔦を巻き付けて柄にする。

学生の中二病全開であったころ、日本刀の柄の再現に没頭したことがあった。

紐を独特な巻き方で巻いていくのだが、完成した時はうれしかった。

 

あんな無駄な経験がなぜかいまここで活かされている。

人生に無駄なものはないんだと男は関心した。

 

完成したナイフは切れ味鋭く、実によい。

ただ調理用になる。薪割でもしたら折れてしまいそうだ。

 

斧やコンバットナイフのような、

雑に使っても問題ないようなものを今後は作っていきたいところである。

 

そんなことを思い出しながら、焼けた魚をほおばるのであった。

 

 

 

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