晴輪物語【始記】15 恐怖

観光

獣狩りじゃああああああああ!

男は嬉々として狩りにでた

機械大鹿の角剣(仮)と鹿皮の鎧(仮)を身に着け

ぶんぶん振り回しながら小物の猿を狩る

猿と言っても成人男性の半分くらいの身長はある

結構大きいのだ

 

そんな猿どもを大きな角の剣でぶちのめす

きゃんっなどと言いながら猿が吹っ飛んでいく

蜘蛛の子を散らすように猿が逃げていく

ここまでやられたら猿としては反撃に出るはずだ

男はそう思いながら追いかけまわす

猿を何十体もつぶして餌食にしながら

 

なぜだろう、反撃がない

小石の一つや集団で一斉に襲い掛かればいいものを

なぜだろうか

やはりこの大鹿セットは強いのか

 

男はだんだん面白くなってくる

 

嬉々として暴れる

 

猿の次は猪だ

数匹いるのを見つけたとたんに男は走り出す

奇声を発しながらまた猪をぶったたく

ドンドン倒れていく

また気持ちよくなる

 

機械樹にも手を出す

大木は無理だが、多少の大きさなら折れた

みしみしと音を立てて倒れていく

大鹿の角はもはや鉄の棒のような重さと固さを誇り

いくつもの木や機械獣たちが餌食になっていく

 

そんな毎日だった

 

ひっくりかえってじたばたしている猪にとどめを刺す

今日の観察対象はお前だ

 

そんなに大きくないので、ひきづっていく

 

手近な木の下で、機械植物からつくったナイフでさばき始める

丈夫な毛皮だ、毛一本一本は針のように鋭い

だが自慢のナイフはまるで黒曜石のナイフのようにすーっと刃が入る

 

皮をむく。骨が見える。

骨もステンレスのような色をしている。

体液だろうか油だろうか、おそらく血の役割に近いものなのだろう

ナマモノのそれよりもあまり量がない、さばきやすい

 

内臓を見てみる

内臓というよりもキャベツのような層でおおわれている

いくつかの部位に分かれているが、部品はあまり多くない

ナマモノと一緒で食道的な一本道があり、ほぼ違いが見受けられない

核は想像よりはるかに小さかった、よくこんな小ささで動けるものだ

ビー玉より少し大きい程度だ

でも湖にいた機械小鳥よりかは大きい

 

素材を集め、木の幹の間に隠し、次の狩りにでる。

 

そう、男は完全に調子に乗っていた。

鹿の皮をかぶるダメ男

虎の威を借る狐

である

 

様々な種類の機械獣たちをぶったたいた

もはやストレス解消のような、もぐらたたきのような

それはエンタメ化していた

 

オオヅツと出会ったなんて嘘のようだ

ここにはそんな強いやつはいない

森の北は地獄だが、山沿いの麓は雑魚ばかりだ

そろそろ日が暮れてきた

今日の寝床を探そう

戦利品たちは明日回収すればいい

 

そう思い、足元に転がる猿の体を蹴とばす

 

次の瞬間背中がゾワッとする奇妙な感覚になる

体は凍り付く

誰かに見られている

あの時と同じだ

オオヅツと出会う直前と同じである

 

青く濃い返り血で変色した体は、その場で射抜かれたかのように

動けなくなった

 

恐る恐る振り向くと、遠くに何かがいる

薄暗くてわからないが多分機械獣だ

まさか…オオヅツかいやあいつならすぐわかる…もっと大きいはずだ

ではなんだ…やつほどではないが、でもだいぶ大きい、角がある、、

えっ

 

なんとそこにいたのは大鹿だった

なぜこんなところにいるのか、大鹿は死んだはずだ

オオヅツによって

 

何なんだ同じ群れの仲間か?

それともつがいなのか?

それとも別の種類の鹿か?

死んだ鹿とは無関係か?それとも死んでない?

にしてもなんでこっちを見ている?

おれに何のようだ??

おさるさんたちをいじめていたからか?なんなんだよくそが

そんな遠くからみて、なめんじゃねえぞ!

どおせお前らは人間には興味ないんだろうが!

エサにはならねえもんな!

それともあれか!いじめてたから怒ったのか!

ざまあみやがれ、どうせお前も見つめるぐらいしかできないんだろうが!

この大鹿の角と鎧があれば向こうから逃げていくし反撃もされない

 

遠くの大鹿は走りだした

こちらに向かってくる

 

いやいや、けどオオヅツも直前で止まった、別の獲物に行ったんだ

俺に用はないはずだ

といいつつまっすぐこっちに向かってくる大鹿から走ってにげる

 

当然鹿のほうが早い

あっという間に追いつかれる

さっきの鹿とはまた違う角の形をしている

種類は似ているのかもしれない

こげ茶色の体毛にお腹側に白い筋、ほぼ同じだ

ということは同じ種族か?

すぐ後ろ、荒い鼻息が聞こえるくらいの近さまで近づいてきた

振り向いて男は鹿の顔を見る

 

見るからにキレている

明らかに怒っている顔だ、鹿って怒るのか

 

男はもらした、走りながらもらした

 

ここで死ぬかもしれない、というか死んだ

鹿は角を振りかぶり、男に体当たりをする

とっさに鹿の角で防ぐが角は折れ、男は吹っ飛んだ

吹っ飛んだ先は急斜面だった

そのままゴロゴロと色々な木に体を打ちながら下に落ちていく

 

斜面の上から男を見下ろす鹿の顔はやはりキレれていた

 

斜面の一番下についた

毛皮のおかげで何とか重症は免れたようだ

 

朦朧としながら斜面の上を見ると

なんと大鹿が転がるように斜面を走ってくる

まっすぐ男に向かってくる

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!

 

男はこの世の者とは思えないような恐怖に見舞われ、叫んだ

一言も話さないし吠えもしないが、走り方と顔が怒りの高さを物語る

今にも体中の血管が切れそうなほどである

普通斜面から落としたら終わりだろう

追いかけてくるとは思わなかった

 

とっさに男は鹿皮を脱ぎ捨て戦利品をすべて放棄した

だが腰に巻いた鹿皮が引っ掛かって脱げない

目の前にきた鹿はそのまま鹿皮に噛みつきはぎとろうとする

男はおもちゃのように宙を舞い、ぶんぶんと振られる

鹿皮がちぎれ、男はまた吹っ飛ぶ

 

焦点の合わない目で鹿をみると

先ほどとは打って変わって穏やかな顔をしていた

その顔で鹿皮の鎧をいとおしそうに匂いを嗅いでいる

その目は優しく慈愛に満ちた目だった

 

男は呆然としていた、脳震盪かもしれない

でもそれ以上に驚いていた

機械獣には感情があるのか

あるいは仲間意識や家族愛のようなものがあるのか

キレていた原因は明らかに男が着ていた鹿皮と角だ

取り返しにきたというころだろうか

あそこまで愛おしそうな顔を見るともう確信すら持ってしまう

 

なんということだ

男は衝撃を受けた

オオヅツの時以上の恐怖

もう死ぬ殺される恐怖

その直後に見る慈愛の表情

もうあれは人間である感情があるとしか思えない

なんなんだこの生物は

なんなんだこの島は

怖い怖い怖い怖い

さっきまで猿や猪を喜んで殺していた男は

壮絶な恐怖に急に襲われ、体中の穴という穴から汁が止まらない

震えも止まらない

 

とにかくこの場を離れよう

鹿の皮を咥えて斜面を登る大鹿を後ろ目に見ながら

男はとにかくこの場を離れることにした

 

 

 

 

 

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