晴輪物語【始記】16 オオモリノシロヌシガミ

観光

あれから何日が経ったのだろう

大鹿に襲われて以来、男は木の陰から出られなくなった。

何日も何日も木の穴にひきこもり、干し肉を食い

水がなくなれば近くの川までビビりながら歩き

また穴に戻る生活をしていた

 

しかしそんな生活は続かない

ひきこもりができるの贅沢なのだ

食料や寝床や服が無限に出てくるのは現代の甘い罠である

この大自然の中では人間なぞ無力であり

いびつな食物連鎖の一部に過ぎない

男が死んでもその体を分解するバクテリアも

死骸をあさる獣もいない

ここは機械の獣、機械の植物の森である

 

いままでうまくいきすぎた

そして調子に乗りすぎた

どんなにふさぎ込んでいても腹は減る

外に出ざるを得なくなる

これが自然で生きるということなのだ

 

しばらく男は淡々と狩り食い寝る生活をつづけた

川とその周辺を主な生息地と定め

まるで昔の湖での生活のように

ただ何も考えずに生きることだけを目的として生活した

 

そんな生活が功を奏したのかわからないが

男の精神に多少の回復が見られた

 

否、そうせざるを得なかった

なぜならこのまま川と穴を往復していても何にもならない

それどころかむしろマイナスである

 

食料は限られ、寝床は悪く

さらに命の危険すらある

 

まあもう大鹿セットはないから

襲われる事はないが

男は完全にトラウマになっていた

 

ただ、ここ数週間の生活で多少精神が復活してきた

一応規則正しい生活をしていたおかげであろうか

 

朝日を浴び、体を動かし、日の入りと共に寝る

健康を絵にかいたような生活が男の精神をいやした

 

ふと男は思った

俺は彼らを知らなすぎる

この島を知らなすぎる

 

東からここまでぐるりと回って、オオヅツにも出会い

生きていたことに胡坐をかいていた

調子にのっていた

 

本当になにも知らなかったのだ

それがあの恐怖で気づかされた

自分がいかに無力であるか

何も知らないのか

いかに単純であるか

 

森で鍛えるしかないとか言っておいて

雑魚をいじめて喜んでいただけである

なんと情けない

 

という反省までできるようになっていた

 

さらに男はこうも思う

 

ちゃんと学ぼう、理解しよう

全てを知ろう

この探検で調子にのってしまった

謙虚に学ぼう

自然に生かされているんだ

自分は食われないとはいえ

彼らと同じ自然のなかにいる

だから関わりがないなんてことはない

かかわらずに生きていくことなんぞできやしないのだ

 

男は立ち上がり、太陽に手を伸ばした

 

これからは謙虚に学ぼう、堅実に生きよう、驕らず、卑下せず、前を向こう

未知を求めよう、危険なことにも勇気をもって立ち向かおう

謎を探そう、秘密を解き明かそう、困難もあるかもしれない

それでも立ち続けよう、歩き続けよう、そうすれは自ずと、空は広がり、海は開け

道が見えてくる、開いた心を持ち、先を目指そう、この先の道が現れ、行く先の空は晴れ渡っている

 

男は立ち直った、これも自然の力だろうか

 

早速だが整理しよう

 

まずは地理だ

この島の北半分の探検を進めている、島は東西の山脈で南へはいけない

島の北半分のうち、北東側はほぼ草原である。ただ森はまばらにあった。

北西側は男が今いる機械樹の森である。そう考えると、北東にぽつぽつとあった森も

機械樹の森かもしれない

 

次に生物だ

北東エリアにいた生物は小鳥は羽虫がほとんどで大きなものはいない

機械獣も同じく最大でも小鳥くらいだった、小さいのは虫

北西エリアにナマモノはほぼいない、食料探しが大変である

川沿いくらいにしかいないからだ

 

そして機械獣だ

北東は小型で数はまあ、、半々といったところか

北西はもうほぼすべてが機械獣である

そして北西の機械獣の頂点は黒熊のオオヅツである

次はおそらく白筋の大鹿である。

その下が機械イノシシ、機械サル、機械リス…などなど

そしてこの健全生活で気づいた

機械獣もすごいが、地面がすごい

虫やおそらくバクテリアサイズの機械虫もいる

そしてこいつらの消化というか分解能力は高い

その証拠に男は護身道具を求め、以前オオヅツに食われた大鹿の骨を得ようと戻った

かなり怖かったが、それだけ使えるものが少なかった

 

現地について男は驚いた

発見当時からかなりの部分が溶けていた

そう溶けているのである

金属だから暑くて溶ける…なんてことはない

分解されているのだ

実際地面を見ると大小さまざまな虫や昆虫がいた

そして骨をよくよく見ると、何かがいた、小さいのが

彼らは食事をしているのだろう

そして地面もすごい

固い地面だと思っていたが、これはおそらく分解された機械獣でできている

つまり、原理は普通の地面と同じなのだ

地面も機械獣たちの残骸でできているということになる

 

とんでもないことだ、何万年やればこんな風になるのだろうか

心なしか黒光りして見えるのは気のせいだろうか

 

男はさらに振り返る

そのあと北西の岸壁沿いに歩き

突然巨大な山脈に出会った

行き止まりかとおもったほどである

男はこの山脈を「出壁山脈」と名付けた。

突然壁が出てきたように感じたからである。

デカフェのような響きである…まあいい

 

続いて現れたのは小賢しい猿である

あの小石を投げた時の目つき、一生忘れない

 

男はあの猿を「ジトメサル」と名付けた。

そのまんまである、ジト目な猿、いいキャラしてると思うが、仲良くなれるとは思えない

 

そして男にオオヅツとは異なる恐怖を与えたもの、大鹿である

男はこの鹿を「ドドフンヌ」と名付けた。

ドドドドドドと走ってくる恐ろしさと

やつが出す怒りは、なんというかもう怒るとか怒りとか憤りとかぷんぷんとか

キレるとかでは足りない、「憤怒」が最もあう

だからドドフンヌである

あの大鹿が群れなのだとしたら、怒らせてはいけない

同時にオオヅツに襲われ無残な姿になってしまった大鹿とドドフンヌはどういう関係なんだろう

家族だったのか、同じ群れだったのか、あの慈愛に満ちた目を見ると、夫婦だったのかもしれない

とすら感じてしまう、群れが一緒なだけであそこまでキレるだろうか

 

完全に男のせいだが、現在の心境に至れたのはあの大鹿のおかげかもしれない

敬意を表して名前を付ける、オオヅツと同じくらいの立派な大鹿だった

大砲とためを張れるのは城や要塞だろうか、そしてオオヅツが破天荒な暴れ者なら

冷静沈着なこの森を統べるような、、

オオモリノシロヌシ、、いやもう死んでいるからオオモリノシロヌシガミとでも名付けようか

なんだか神様っぽい名前になってしまった

 

男は川から岩をもってきた

そしてまだ溶け切らない気高き大鹿の骨と

恐る恐る急斜面を登りって粉々になった角を回収して

一緒に埋めた

そこに墓石を立て、ナイフで銘を刻む

北の森の守護・オオモリノシロヌシガミここに眠る

 

毛皮は見つからなかったなぜだろうドドフンヌが食べたのだろうか

 

まあとにかく

これで気持ちが切り替えられた

川で久しぶりに体を洗い、清めた

そして男はこれからの計画を練り始める

 

 

 

 

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