晴輪物語【始記】20 開戦

観光

ある朝晴れ晴れとした気分で起きた男は、元気な足取りで川へ向かう

顔を洗い、身支度を整え、朝の狩りに出かける

一食分プラス保存分をとったら、すぐに朝食だ

続いて採取に移る、狩りをしつつ、素材を集めるのだ

そして道中昼食をとりつつ

各所を偵察・警戒・戦力分析や情報収集しながら近場の隠れ家へ戻る

午後は防具と武具と生活用品などの作成に取り掛かる

そして日の入りと共に、男は就寝する

 

これが男の一日だ

今までにない充実感を得ている

 

だが、この島自体には事件が起きていた

全てはあの日にさかのぼる

 

あの日、ジトメザルのボスと戦った

直後に乱入してきたエンゲツ達により、ジトメザル対エンゲツの戦いが始まった。

 

男のくだらない思春期が終わりを告げたあの満月の夜

ジトメザルのボスが死んだ

男が大人になったきっかけを与えてくれた、いい漢だった

男は彼に最大限の敬意を表してこのボスジトメザルへ

「アサギリノヒノミコ」(朝霧の日御子)という名前を贈った

 

男とボスが戦ったあの朝の日を名前にして贈ったのだ

ミコはあまり深い意味はないが、男の中では死んだものには敬意を表すべきと考えていて

カミは最上、ミコは上といった具合でこの世界に貢献した者に与えていた

どちらも男にとっては大切な者だ

オオモリノシロヌシガミはオオヅツとタメを張れる唯一の存在で、

彼がいなければ男は食われていたかもしれないそういう意味でこの世界に大きな影響を与えたからカミ

ボスジトメザルがいなければ、男は幼子のままだったかもしれない、そして何より

彼が亡くなった後の残されたジトメザルの哀しみを見れば、いかに慕われていたのかがわかった

ゆえにミコの名を送り、もちろん墓も立てた

彼の墓のある黒い葉の森は「朝霧の森」と名付けられた。

現在はジトメザルの残党が細々と墓を守っている

 

話を戻そう

ボスジトメザルが亡くなった夜、エンゲツ達は執拗にジトメザル一族を攻め立てた

朝霧の森(黒い葉の森)から追い出され、それでも追われたジトメザル一族は

散り散りになりつつも一部が南の山を越えてしまった

 

出壁山脈は実は東に南への道があった、道というより崖なのだが

ジトメザル一族はここを通り、南の森へ逃げた

山脈の南は黒い葉の森に負けず劣らず深い森であった

木々の背も高く、葉も大きい

ただ少し違うのは、機械樹と生物樹が混在している森だった

そしてここで幅を利かせているのは狼たちである。

この狼たちはもちろん機械狼だ。

縄張りに侵入された機械狼は、すぐに迎撃に向かう

ジトメザルは体が大きい、このため普段は猿を攻撃対象としない狼だが

この時はジトメザルに襲い掛かった

一瞬互角になったが、司令塔がいない猿軍団はあっけなく四散し、また北へ敗走した

 

この時機械狼たちは、追撃を開始したのだ

南の機械狼が、逃げるジトメザルを追い、北へ侵入した、

機械狼たちはどうも飢えていたらしい、そして北の森のほうが豊かだったようだ

なにせすべて機械の木々で機械の獣だ、獲物だらけである

ここに機械狼たちは狂気し、同じ機械の獣を襲い始めた

ジトメザル・機械鹿・エンゲツもだ

とくに体の大きいジトメザルや血の気の多いエンゲツ達は餌食になった

何日も何日もこの侵略は続いた

犠牲は増えるばかりで、北の森はほとんどが狼の勢力下におかれたかに見えた

そこで出てくるのが機械猪の一族だ

彼らは狼に突撃した、突破力の強い猪は北の森で唯一といっていいほど狼に強かった

ここに猪対狼の構図が生まれた

さらに厄介なことに狼の親玉も北の森に侵入した

どれだけしょぼいんだ南の森は

まあ機械生命にとっては北の森は楽園なのだろう

 

こうして何か月も続く「大戦」が幕を開けた

 

大戦後にわかったことだが、実は北の森は絶妙なバランスで均衡を保ち森を守っていた

ジトメザル一族は北の森で最も数が多く勢力が大きい種族だった

彼らの森での役目は「警戒」「種まき」である

食事のあとのフンで森に肥料を与え、その数と持ち前の眼で北の森に警戒網を敷いた

同じ猿の一族であるエンゲツやその他の小物の猿一族も同じようなことをしていたが

ジトメザル一族が最も組織として完成していた

 

あの夜、そのジトメザル一族が四散・崩壊し、外敵の侵入を許した

警戒網が無くなり狼の侵入を許したばかりか初動で出遅れる

さらに種まき機能が無くなり、種子散布に影響がでる

果樹地帯に変化が起き、ジトメザル一族の後釜争いが起きて

猿どもの醜い争いが起きる、そこへ今まで息をひそめていたエンゲツはじめ他の猿一族も加わり

今までの縄張りが大きく変化し、空いたところに南から侵入される

こうして群雄割拠の大戦へと発展した

今は何か月がたったのだろうか

毎日毎日死体が絶えない

猪と狼、猿と猿、リスとリス、鹿と狼

さらに熊までも狼と戦う始末だ、オオヅツはまだ確認できていないが

おそらくどこかで戦っているのかもしれない

狼の親玉まで入っている、足跡を確認した

大変なことが起きている

 

男は、自分のせいでジトメザルのボスが死んだという罪悪感と

自分のせいでここまで戦いが大きくなり、大戦になった責任感から

ケガした機械獣の治療や救助を行っていた

 

そして定期的に情報収集や観測、戦力分析や勢力図の確認を行い

今を知り、平和が訪れるようひたすら祈っていた

朝霧の森は猪が参戦して少し戦線が南へ下がったため、入れるようになったのだ

ジトメザルが逃走したのを見ていたため、男はもしやと思っていた

ボスはあの戦場で死んでいた

そこで墓を作り、祈りをささげた

謝罪と感謝を

 

男にできることは限られていた

ただ今までのように引きこもったり、空回りしたりせずに

できることを地道にやっていた

 

情報収集をしているおかげで、正直機械獣のことはさらによくわかってきた

さらに治療をすることで体の仕組みもわかってきた

 

治療法は人間に近いが、とにかく直りが早い

血の気が多い機械獣の種族が多いが、治りが早いから学ばないのかもしれない

同じ種族の体の一部を当てて固定するとすぐに治る

それがなくても、水につけたり、機械樹の樹皮や草でも時間はかかるが少しづつなおっていく

なぜ違う生き物なのに治るのだろうか

薬草じゃあるまいし、別の存在だぞ

不思議だが、まあ仕組みがわかればこちらのものだ

男は森のお医者さんとして森をかけまわり、治しまくった

 

北の森の頂点は熊の一族だが、オオヅツ一族は見かけなかった

代わりに分家というのか、オオヅツほどではないが結構大きい熊もいて

熊一族も種類があると知った

 

この熊の一族、狼と互角かそれ以上である

猪が攻撃特化なら熊は守りが得意であり

狼は数と質のバランスが取れている種族だが、攻めあぐねていた

当然互角であれば犠牲はバタバタでてくる

 

戦車や戦闘機なぞは出てこないにしろ、今の北の森は阿鼻叫喚の地獄だった

今まで武具防具を作るために使っていた小道具を治療用に転用させて、

治療法をある程度確立したある時

男はとある患者に出会う

それは傷ついた子熊だった

 

 

 

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました