晴輪物語【始記】27 生きるため

観光

男は答えた

「その言葉、どこで教わった?」

 

エンゲツは答える

「穴の中で教えてもらったよ」

 

男は聞く

「お前は患者でも生徒でもないはずだ、どうやって学んだんだ?」

 

エンゲツは淡々と答える

「静かになってから、教えてもらったよ」

 

男はエンゲツにとびかかり、胸ぐらをつかむ、小さい体のわりにとても重い

「一緒に教えてもらったわけではないんだな?」

 

「教えてもらってない」

 

「だれもお前に教えてないな?」

 

「だれも話さない」

 

「食ったのか?」

 

「たべた、頭」

 

男はエンゲツを地面に叩きつけ、近くのジトメザルの腰から剣を抜き、切り殺そうとした

エンゲツは続ける

「教えてもらおうとしたら、後ろから二本足の狼が来た、おれは食べただけだ」

 

ふざけんじゃねえええええええ!!!!!!!

 

男は息が上がっていた

このなんの悪びれもない、エンゲツの態度に、腹の底が煮えくり返る

 

エンゲツが話す

「お前のせいだろう」

 

男は反射的に言い返す

「ああそうだよ!!だからこうして罪滅ぼししてんだろうが!!

てめえが仕掛けなきゃ戦争にならなかったかもしれないだろ!」

 

「おれたちは生きたいだけだ」

 

「はあ?」

 

「おれたちは生きるんだ、食べて生きるんだ」

 

「んで、言葉を得てどうするつもりだ」

 

「おまえおれのことわかるのか」

 

男は怒りが頂点に達した、その時ふっと力が抜けた

やめた、こいつは悪意を持っているわけじゃない、そもそも、すべては生きるためなんだ

生きるためにジトメザルのボスを殺し、生きるために同胞を食らう

言葉を覚えたかったわけじゃない、食べたら話せるようになったといった感じだ

しかも竜が洞窟に来たのは間違いないようだ、こいつは竜を呼んだのかもしれない

ということは、ここにも竜が来るかもしれない

そう考えると、こいつとやり取りしていても無駄だとおもった

思考回路が根本的に違うのだ

そして男は直感的に洞窟の仲間を食べて言葉を得たと気づいた、頭を食べたといった時に感じた

核を食べたんだと思った

やはりそうだ、核は記憶装置でもあるんだ、そして取り込むと、その知識を得られるんだ

何てことだ、では食べたかったのか?

 

「おまえ腹が減っているのか?」

「いらない、もうたべた、なかまにあう、森にかえる、きえろ」

 

そう言ってエンゲツは歩き出した

後ろではワコが歯をむき出しにしている、今にも襲い掛かりそうだ

男は直感的に、ワコを制した

そして小鳥と鹿に後をつけるようにいった

 

エンゲツは南に歩いていった

そして滝についたあたりで、一匹の狼と合流した

 

エンゲツは狼の背に乗り、南へ走りだした

 

報告を聞いた男は身が震えた

エンゲツは南の機械獣なんだと気づいた、だから北の森には珍しく好戦的で、小道具を使う賢さもあり

かつ生き残るためには手段を選ばないあたり、南の連中にそっくりだ、おそらく狼はじめ動物を扱う

こともできるのだろう

 

男は後悔した

仕留めておくべきだったと、言葉を話せる機械獣が捕食された場合、捕食した方は話せるようになる

エンゲツや洞窟を襲った竜はおそらく話せるようになっている

これは厄介だ、まあもともと話せるようだが、より効率的になるかもしれない

 

そして何より「お前が来なければ」という一言が重く胃にずっしりといた

確かにそうだ、俺があんなことをしなければ、森は荒れなかったかもしれない

 

いまさら言ってもしょうがない、だから治療をして、森を守り、平和にしようと今動いているのだ

「今生きている者のことを考える」男は立ち上がった

 

そしてみんなに語り掛ける

「たしかにおれば大馬鹿ものだ、この戦いは俺が起こしたようなものだ、だから俺にはこの戦いを

止める義務がある、この北の森を守り、再生させ、みんなが安心して豊かに過ごせる世界を作る、

けど俺一人ではこの学校一つもまもれやしない、みんなには迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい

ジトメザルのボスに、あの大きな鹿に、謝りたい、おれのせいなんだって、全部おれなんだって

ごめんなさい、、ごめんなさい、、、ごめん、、なさい、」

 

男は泣き出した

本当は助けを求めるために読んだのに、ただの懺悔になってしまった

集会は解散した、何もできなかった

 

自警団だけが残った

 

うつむく男の前にどんっとなにかが置かれる

男は顔を上げた

そこには駆け出し地蔵がいた

後ろにいるのはワコだ

 

「なにもしないことが一番いけない、座っていてはなにも起きない、足を出せ」

ワコが言った

 

おそらくこの駆け出し地蔵のように、前に進めと言いたいのかもしれない

ワコなりに元気づけてくれているのだろうか

 

よし

男は立ち上がる

思いもよらず大変恥ずかしい姿を森にさらした

だが、恥ずかしい姿は昔からだ、ここからは行動で示していく

 

男はまず滝の隠れ家の偵察から始めた

常に狼が10匹程度いる、結構守りが固い

まずはここを獲る

 

日の出前、男と自警団は滝の周囲にいた

東から太陽の光が差し込むのを合図に男が猪に乗って滝に突入した

狼たちはすぐにこちらに向かってくる、4匹

猪と共に、狼の数を減らしていく、そのすきにワコに乗ったジトメザルが脇をすり抜け

滝の裏に突入した

中にいたのは少々大き目な狼だった、中隊長クラスだろうか

滝の裏の洞窟で中隊長狼とワコの戦いが始まる

残りの鹿・ジトメザル組ださらに横から突入し戦線を攪乱する

そうやって戦力を分散したあと、初手の4匹を始末した男と猪が

突進でさらに戦力を削っていく

 

滝の奥ではワコが中隊長と死闘を繰り広げていた

だがワコはすでに男より大きくなっていて、その力は木も折れるくらいだった

素早い狼とは相性が悪いが、だからこその洞窟での戦い、機動力を奪い、ワコが攻めやすいようにした

ワコは狼の腹を切り裂き、滝壺攻略戦に勝利した

 

男はすぐに滝の守りを固める

 

数日すると川の隠れ家から伝令鹿がきた

どうやら滝壺の戦いの勝利を聞いて、ジトメザルの残党が協力を申し出てくれたのだ

滝のそばで、残党の長と会う、なんとこいつも言葉が話せた

 

長は言った

「すまない、君に伝えたいことがあったが、私から伝える方法がなかった」

 

男は怒らなかった、これも男のまいた種の一つなのかもしれない

「君に我らのタアシエからの言葉を伝える、”霧に立ち、朝日を背に受けよ”」

 

最初、男は意味が分からなかった

タアシエってなんだ?いやまさか…アサキリノヒノミコのことか…?

それで考えると合点がいく、”霧に立ち”とはあの日の戦いの始まりのことを指している

では”朝日を背に受けよ”は…?

 

ぽかんとした顔の男を前に、残党の長は男に向かってお辞儀のような動きをした

連れの猿たちも同じようにした

そこで初めて男は理解した、”背に受けろ”とはあの日のアサキリノヒノミコの立ち位置のことだ

あの日彼は後ろからの朝日を受けて男を受け止めた、

つまり、ボスになれということだろうか

 

長は続ける

「タアシエは言った、あの男はこれから朝日の前に立つだろう、と」

 

おそらく朝日の前に立つ、というのは、ボスの座に就くという意味のようだ

「敵を退けた、タアシエ」、長が続けながら、男の両肩をバスンバスン強くたたく

他の猿たちも後に続き肩をたたきにくる、その時男は初めて、

呼吸しかしていないと思っていた機械獣たちが

口々に「タアシエ」と言っているのがわかった

 

アサキリノヒノミコは男がリーダーになると思っていた

だからあの時、肩をたたいたのだ

 

こうして男はジトメザル一族のタアシエ(族長)となった

 

族長の最初の仕事は、彼らに大鎧と槍と剣を授けることだった

そして見事中隊長狼を倒したワコには、その狼の兜を作ってあげた

タアシエになったという話は北の森にすぐに広まった

聞きつけた猿が森から滝の隠れ家に集まってくるようになった

 

後から聞くところによると、タアシエというのは「賢しいもの」という意味だそうで

転じて族長という意味だそうだ、強いものとか王でないあたり、さすが知的なジトメザル一族である

そしてこの称号は北の森の猿共通だった、呼び名はバラバラだ、だが意味はどれも賢しいである

おかげで急激に戦力が増した、男は滝と川に分けて部隊を配置、

3分の2を滝に集めて残りは北の森の守りにつかせた

そのまま南に殴りこもうと思うところ、男は猿軍団の訓練を始める

 

訓練の間、男は偵察をしようと思った

ワコと残党の族長に管理を任せ、自分は一人で南に向かった

 

出壁山脈はこの島の東西にまたがる大きな山脈である

だがちょうど真ん中より少し東側に巨大な渓谷がある

ここからやつらがきたんだと思った

男はこの渓谷を「始まりの渓谷」と呼んだ

 

渓谷を進むと、男は驚く、生物樹だ、久しぶりのナマモノだ

採取をしつつ前で進む、機械樹に慣れすぎたせいか、生物樹に囲まれるとすぐにわかる

空気が違う、こっちのほうがおいしい、空気すら生きていると思えるほどに

 

しばらく進むと黒い葉の樹がちらほら出てきた、どうやら機械樹の様だ

こんな感じで点在しているようである

 

不思議な光景をみた

一匹の狼が、前後の二本足で立ったまま固まっている

まるで歩いている最中に時間を止められたかの様だ

恐る恐る近づいてみると、狼の眼だけがギョロっとこちらを見た

男は驚いた、この狼は生きている

と躓いて後ろにコケる

起き上がると、膝丈くらいの茶色い杭のようなものが地面に刺さっていた

まさか、初めての人工物か?と思ったが、どこからどうみても木であった

だが形が妙だ、地面に行くほど太く広がるのは普通の樹と同じだが、頭が違う

キレイに3つ角が生えている、葉もない、しかもつるつるしている

ツインテールのようにも見える

押しても引いてもびくともしない、そしてやたら暖かい

こいつもしかして機械樹の仲間か?男は疑う

まあこのまま見てても何も起きないので、狼には悪いが男は先を急ぐことにする

 

 

 

 

 

 

 

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