晴輪物語【始記】29 キノメヅとメヅ

観光

男は渓谷で一夜を明かした

とても寒かった

 

帰ったら自警団の陣容を整えよう

偵察隊を作り、情報収集だ

同時並行で猿軍団の戦力化である

あとは何が必要だろうか

そもそも装備を作るのは男一人では無理だ

鎧や武器が一人ひとり、いや一匹一頭それぞれにオーダーメイドなんて

この上なく時間がかかる

うん、装具師を増やそう、鎧と剣の両方だ

誰が作れるのだろうか、やはり猿軍団だろうか、、、

ひとまず渓谷に陣取り、これ以上の侵入を防ごう

 

そして北の森の中にいる南の残党を一掃する

 

男は起きた

渓谷の朝は実にすがすがしい

 

身支度を整え、北の滝の基地へ向かう

 

道中、往路で見た機械生物を見に行った

 

男は非常に驚いた

狼がいない

代わりに大きな半球がいる

ざらざらごつごつしていて、固い木の皮の様だ

あの角のある生物はどこに行ったのか

これはやつと関係があるのか

 

男は気になって仕方がない

決めた、もう一泊する

男は半球がぎりぎり見えるあたりまで後退し一晩観察することにした

 

朝から昼にかけて、変化なし、夕方の日暮れになって初めて動きがあった

 

形が徐々に変化していく

だんだんと半球がしぼんでいく、そして例の狼の形になった、と思いきや

突然木の形になった、そして往路で見たよりも大きくなっている

角は三本、最初と変わらない、ただ倍以上の大きさになっている

そして今度はその大きな木の生命体は縦に分裂し始めた

なんと長い時間をかけて、木は二つになった、分裂したのだ

同じ姿の3本角の樹が二本。なんだあれは意味が分からない。

 

今後の偵察や逆侵攻に差し支えるかもしれないと思った男は

こいつらをしばらく追跡することにした

あっちはきっとワコがうまくやってくれるだろう

時々偵察鹿が状況報告に来てくれた、男は鹿に指示を出せたから心配はしていなかった

 

それにこいつがもしも敵だった場合、南に行く手前でえらいことになる

そこを見極める必要があった

 

さてしばらく追跡したが、こいつはとにかく動きが遅い

一晩過ごして朝見たら、ほぼ動いていなかった

 

キリがない、もう最終手段だ

 

その辺の小型の機械獣を捕まえてきた男は例の樹に近づいた

そして樹のそばでその小型獣を数匹放してみた

 

すると小型獣は一目散に樹から離れようとした

全力疾走である、焦っているようにも見えた

 

二本の樹と逆方向に走る

ところが小型獣が突然動かなくなった

 

なぜだ?

三本角からは割と離れている

もう川が近い

 

男が近づいていくと、そこには小さ目の三本角がいた

しかも二本である

 

一本は小型獣から数メートルの位置に

そしてその小型獣と三本角の直線上にもう一本の三本角がいた、少し遠い、あっちは大きいな

 

放した小型獣はあと2匹いたはずだが、、、

 

あたりを見回すと、また別の場所でしっかり動けなくなっていた

見渡すと、また三本角がいる、そして直線上に小型獣がいて、動けなくなっていた

三本角を見ると、角が小型獣の方にゆっくりと向き始めた

とにかく動きが遅い

そしてじっと三本角を見ていると、本当にゆっくりとだが小型獣に向かって前進していた

 

男は理解した

この三本角は二本で一組なんだと

そして機械獣はこの二本の間の直線上に来た時に動きを止められてしまう

動きを止めた獲物にゆっくりと移動してから、二本合同でゆっくりと捕食するのだろう

その捕食シーンが、数日前にみたあの半球状のドームだ

二本で共同して捕食し、サイズが大きくなる、そしてまた分裂する

そのあとも何日かかけてしばらく追跡したが、どうやら一定の大きさになると分裂し数を増やすようだ

 

なるほどこうやって個体数を増やしていくのか

つまり2本で一組、捕食し一定の大きさになると新たな一組を生み出す、

生まれたての一組はまたゆっくりと移動し、捕食をする、この繰り返しなのだ

 

なんと興味深い、そしてなんと動きが遅いのか

こいつらの研究だけでもう数十日は使っている

ただの偵察のつもりが、この渓谷には二月以上の滞在している

 

だがとても有用な研究であった

こいつらは他の機械獣とは全く異なる進化を遂げたようだ

四本足で素早く動くのではなく、動かずに木に擬態することを選び

どうゆう原理かは知らないが、ついになった者同士を結ぶ一直線は絶対に破れない

ここを通ったものは動けなくなり、ゆっくりと餌食になるという仕組みである

ただの推測だが、無から有は作り出せないはずなので、牙とか爪とか足とか

そういうその辺の機械獣たちがもっている優位性をすべて捨てて

動きを止める光線みたいな何かに全能力を注ぎ込んだのだろう

その結果罠にかかればほぼ確実に獲物をしとめられるような仕組みを作り上げた

だがその代償として俊敏さは皆無、目の前にいる獲物を捕食するまで数十日を要するという

大変面倒な方法に至ってしまった

 

欠陥品としか思えない、なんという非効率さ

他の機械獣に横取りされないのかと心配になったが

そもそも横取りに来た時点で、そいつも動けなくなる

樹からすると、獲物が増えるだけなのだ

そういう意味では効率的かもしれない

こいつの天敵は何なのだろうか

 

もしかして、これは機械樹の子供なのか?

これを繰り返して、大きくなったら一本の巨大な樹になるとか?

だとすれば、半球状の時の樹皮のような表面は理解できる

樹を模倣しようとしているのか

この渓谷にいる機械樹はみな細めである

樹齢数千年級がひしめく北の森と比べれば、ここは数十年もない

原因は獲物の少なさと生物樹と混じっている生息地域に問題があるのだろう

相対的に獲物の数が減る

きっと北の森なら個体サイズが大きいので、すぐでかくなるだろう

と考えると、北の森の機械樹達は、何年も前から捕食して、現在に至るのかもしれない

 

一定の大きさになると動けないし、逆に動かなくても自分のそばで死ぬ機械獣も出てくる

もしかすると以前大鹿を溶かしていた機械の虫や土の中にいる者たちは、

大きくなった機械樹の捕食の手伝いをしているのかもしれない

 

となるとやはり北の森は恐ろしい、きっと森全体が機械樹を中心につながっていて

死ぬと森に捕食され、森の一員になるのだろう

逆に、機械獣たちは、機械樹の樹皮を食べたりもしている

そうやって循環しているのかもしれない

 

男はこの木の子供にキノメヅと名付けた

機械樹の素となる「樹の芽づくり」をしていると思ったからだ

彼らは大きくなると大地に根を張り、森を形作るだろう

そしてこの分裂したばかりの小さ目の木は「メヅ」となずけた

意味はない、樹の芽づくりをしている親木と新たに樹の芽づくりを任された新米の「芽」だからだ

 

本当ならしっかり研究したいところだが、今は目で見たことから推測するしかない

機械樹の子供であることは想像だが、おそらくあっている、

そうでなければこんな意味不明な生物は存在意義がない

生命の真似事を機械がしているとすれば、循環をしていないといけない

それならこいつらが樹になり樹皮を食べてもらうことで還元するなら理解できるのだ

実際、機械獣たちはわかっているのかいないのか、キノメヅもメヅも襲わない

直線上以外なら襲い放題なのにだ

おそらく食べても内側から吸収されてしまうのだろう

なんとも質の悪い生物だろうか

 

だがこの観察で男は理解した

こいつらもまた生きようとしてるだけであると

だから敵ではないと思った

ただ、この直線上に立つと終わりなので、ちゃんと避けて進む必要がある

 

よくよく観察すると、直線上なら大きさは関係ないらしい

自分より大きくても動きを止められるようだ

多分光線みたいなものを撃っているのだろう、相方と挟み撃ちで

 

そしてもうひとつわかった

一組でしか狩りをしないということ

こんだけ何本もいるんだ、柔軟に相方を変えれば無限に狩りができるし

5.6本で共同作戦でもすればエリア丸ごと狩りができる

でもそれをしないのはなぜか、できないのだろう

すでにやってるはずだ

 

生み出すメヅは2本、こいつらがすでにペアとして生まれているのだ

双子ということだ、他の双子とは組めないのだろう、わからんでもないな

 

数千年後にはここも巨大な機械樹の森になっているのかもしれない

あるいは、生物樹に飲み込まれているのかもしれない

男はそんなことを考えながら、今度こそ滝の基地へ向かうのだった

 

 

 

 

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