「二本足の鹿がいる」
落船(島の南西部)の領民より通報が入った
祭が終わってから数日のことである
領民から領乃棟(りょうのむね/領の囲炉裏会議所属「棟(情報機関」のこと)へ通報が入った
最初は何かの見間違いだろうと判断されたが、複数回通報が来たため領乃棟が現地へ公安を派遣
しかし二本足の鹿は見当たらなかった
ただし地面には二足歩行とみられる足跡が見つかった、それは鹿のではなく竜の足跡に近いものだった
でかい竜の見間違いでは?となり話は一旦終わったかに見えた
だが目撃情報は続き、公安は再度調査を開始
足跡から考えると、竜は二本足のため、辻褄は合う、ただ竜に鹿のような角はない
竜族へ問い合わせたところ、角のある竜は存在しないという回答だった
領乃棟は「竜の足と鹿の頭を持つ二足歩行の機械獣」という意味不明な生物と仮定し
落船領の領乃守(りょうのもり/領主)の猪族と共同で捜索活動を開始
この情報は領炉(りょうろ/領の囲炉裏会議)である落船領囲炉裏会議でも取り上げられた
意味不明の情報であり、戦争以来エンゲツ達も消息がつかめないままであるため、
また指揮官や機械兵士たちの生き残りが存在するのではという不安もあったため
中炉(なかろ/中央囲炉裏会議)へ報告が決まる
戦争から1年が過ぎても領によってはまた当時の記憶を鮮明に覚えている領民も少なくはない
機械兵士の再来であるとビクビクするものもいる
また、エンゲツ達が終戦以来全く世に出てこないこともとても気がかりであった
事実、中ノ棟(中央囲炉裏会議の情報機関「棟」のこと、晴輪国の情報機関の頭である)は終戦後も
内密にエンゲツ達を追跡・監視し続けており、国内の不穏分子としてかなり警戒している
これが戦争の傷跡というやつなのだろうか
中炉ではこの話題で持ち切りになった
お祭り以来、優勝して調子に乗っている熊族の長の自慢話と
猪族の親分のブチ切れ芸の応酬のようになっていたため、新たな話題に他の長は飛びついた
この話は男の耳にも入っていた
確かに機械兵士の生き残りの可能性もなくはないが、男には一つ心当たりがあった
ただそれは男の予想外の展開で少々自信がない
男はご神木の元を訪れた
「そりゃあおまえ、人型だろう」ご神木はさらりと言った
「機械兵士と指揮官と移民船の解析はだいたい終わっている
いまは解析した情報をどう整理し格納して利用していくかを森の中で試行中だ
この段階で人型が生れても全然おかしくない」
「でも竜の足と鹿の頭って意味がわからないぞ?解析してそれかよ」
「まあそういってくれるな、森も完璧ではないのだ、未知のものを解析して
森は森なりの理解をしているつもりだ、ただ今言ったように整理はできてない
現状の理解段階で生み出してみたというところだろう
そうすると、いま実際に話している貴様の情報と解析した兵士と指揮官の情報を統合し
現在森が出せる限界が”それ”ということだな」
「てことは人型を再現できないから、今ある知識でそれっぽいものを生み出してみたと
だから、足は竜で頭は鹿なのか?」
「うん、それが一番ありうる」
「なんでお前神の樹なのに断言できないんだよ、森とつながってるっていうか
森そのものだろ?」
「森は奥が深いのだ、わしはその窓口に過ぎない、といっても窓口の中ではかなり格は高いがな
はっはっはっは」
「そいつが暴れる可能性は?」
「ない、むしろお前を探しているはずだ」
「探している?なぜ?」
「人族の長はお前だからな、別にそう刷り込んではいないが、種族というのは引かれあうものだ
そいつはお前と会った時に直感的に長と認識するはずだよ」
「ほんとかね、指揮官の仇とか言って殴り掛かってきたりしない?」
「・・・」
「返事しろコラ」
「わははは、まああってみて、自分の目で確かめるんだな、おまえも長となるのなら
そんなわけのわからないものの一人や二人、抱え込める度量を持て」
「じゃあ探しに行くわ」
「ああそうだ、やつの体は大切にな」
「は?」
「いいから、大切にしろよ?」
「はあ」
男は腑に落ちないまま日和の大神樹を後にした
その後、男は探検隊第十三中隊(特務部隊)を招集
隊長であるおなじみのお猿の中隊長は久しぶりの任務に張り切っていた
そして伝令を中炉と領炉に飛ばし、本件は探検隊第十三中隊にて預かると伝言をした
さすが実戦経験豊富な部隊は動きが違う
速やかに雀さんたちが目撃情報のあった地域周辺に常時展開し空から監視
さらに鹿が地上から監視し、
熊と猪は拠点として各地に散り、雀さんと鹿さんの交代&休憩拠点と情報交換の場として機能
重要な情報は猿の隊員に伝達し、猿から伝書雀でお猿の中隊長の元へ、そして男の耳に入った
この第十三中隊には新たに狼と竜も参加している
重要な目撃情報があった際は狼さんと竜さんの遊撃隊が猿を乗せ速やかに現場へ向かい、
現場につくとお猿さんたちが分析を始める
この繰り返しで、男は足跡を記録していった
すると行動が見えてきた
やつは渓谷を目指しているようだ
遊撃隊を渓谷に送り、待ち伏せさせる
キノメヅにも声をかけ、手伝ってもらえるようになった
ある昼下がり
その日は妙に風がなく、太陽は雲にかくれていた
湿気が体にまとわりつく、そんなジメジメした日
そいつは現れた
ゆっくりと歩きながら渓谷へむかってくる
森の奥から出てきたとき、皆その姿に驚いた
2メートルはあるだろうか
報告通り、足は二本で手も二本
二足歩行で、しっぽのようなものも見える
見た目はほぼ人間に近いが、腕の長さが左右で異なっていて、長い、地面につきそうだ
てっきり機械兵士や指揮官のような外見を想像していたが
機械というよりも、樹の妖精のような見た目で
全身がこげ茶色で体のいたるところから枝が生えている
とくに背中からたくさん生えている
まるで鬣の様だ
顔を見ると、大小さまざまな目が4つほどある、小さいのを含めるともっとある
一番特徴的なのは頭の角だ、3本あって、大きい
確かに鹿と見間違えられてもおかしくない、立派な角である
ゆっくり歩き、渓谷入口の前で停止した
遊撃隊に緊張が走る
ところが以外なことが起きる
この樹の妖精に、鳥が止まったのだ
うちの機械雀ではない、この南の森の自然生命だ
男は驚いた
なんで鳥が…
別に何か話しているわけでも、気に入られているわけでもなさそう
ただ、そこにいるだけというか、ほぼ樹だと思われているのだろうか
男はこの瞬間、緊張が解けた
渓谷の樹の影から男は飛び出す
お猿の中隊長は止めに入るも
他の遊撃隊たちに取り押さえられてしまう
男はゆっくりと妖精にむかってあるく
妖精がこちらに気づく、こちらを見ているようだ
妖精の目の前に男は立つ
少し、男は怖かった
指揮官と地下の移民船の中で対峙した時を思い出したのだ
だが今目の前にいるのは敵ではない
ここにいる機械獣たちの同じように、森に育まれ、森と共に生きる、生命なのだ
とはいってもなんて話しかけるか考えてなかった
男は急にもじもじし始める
すると、妖精の方から動きがあった
お辞儀をしてきたのだ
男もゆっくりと礼をする
2人とも直る
なんと妖精が口を開いた
「おきつみつしきいりや、くくしきのそん、かわくにつて、しかばあうり」
男は耳を疑った、全く意味が分からない、だがこれは明らかに男がみんなに教えている文字だった
もはや直感を頼りにするしかない、男は意を決して、妖精を見た
「私は、この島で動植物や地理の研究と医者をしているものです、お名前を聞いてもよろしいですか?」
「あに、みくいで、そん、でわ、まきじ、しょうらく、もりひと」
しょうらく?もりひと?と言ったかこいつ、いまのは全部名前なのだろうか
男はある程度言葉が通じているような気がした
何をいっているかはわからないが
言葉を覚えたてのワコとかなり近いものを感じる
すると、妖精は右足を後ろに下げ、半身になった、しっぽがだんだん上に立ってきた
なんだろう、すごく嫌な予感がする
戸惑う男をよそに、妖精は続ける
「ほけし、らな、く、すぎあい、な・・・せん!」
妖精は男めがけて飛び掛かってきた、長い腕で突きを繰り出してくる
とっさに男は避けて距離を置く
妖精は続けざまに攻撃を繰り出す
実に荒いが食らったらただでは済まないだろう
しばらく逃げ回っているうちに、男はふと気づいた
ここは渓谷の入口である、そして”南の森の入口”でもある
もしや・・・いやまさか・・・
当たりを仕掛けてきているのか?
こいつはいったいいつから森にいたのだろうか
まさか大筒祭を見ていたのだろうか
てことはさっきのは礼の後の名乗りか
あのアタリを見ていて、それを今やっているとしたら
これは勝たないといけないのではないか?
いやいやいやまさかね
でももしこれアタリ場だとしたら、これ勝たないとだめじゃね?
こいつがもし本当に人型だとして
男が負けた場合、この人型は男のいうことを聞くだろうか?
こいつが男の話を聞いてくれなければ、統率することなんかできるわけがない
今後新たに生まれてくる人型は、この目の前の妖精の指示に従うだろう
これが弱肉強食というやつだ
ということは、ここで力を見せなければ、男にとってまた以前のように人型を敵に回してしまうことになるのだ
「やっべえなこれ・・・」
男は急に危機感を感じた
一瞬でも友好的に仲間になれると思い込んでいた自分が恥ずかしくなった
おまけに十三中隊も見ている
これは番外編大筒祭森の口当たり場のようだ
くそ・・・武器はダメか
アタリのルールは足の裏以外を地面につけること
武器道具の使用は禁止である
男は頭をフル回転させて戦うことにした
拳と蹴りを妖精と打ち合う
固い体だ、指揮官の時とはわけが違う
なんせ剣があったから
男は森に飛び込む
妖精が追いかけてくる
何度も打ち合いながら男は逃げる
妖精は無言のまま追いかけてくる
こいつ怖い
そして男は気付いた
やつの体から生えている枝
何本か折れている
なんでだろうか
男との打ち合いで折れたわけではなさそうだ
そんなことは後で考えよう
男は適度に打ち合いながら距離をとる
だんだん妖精は攻撃的になってきた
一歩が大きい、これは使える
男は立ち止まり何回か打ち合う
そして妖精が大振りになったところに体当たりをかます
多少は効くようだ
これを繰り返す
妖精が攻撃を繰り出す、男は避けて体当たりする
そしてその時がきた
体当たりのすえ、妖精は片足がハマる
そう、湿地である
一瞬身動きが取れなくなったところに男は両足で思いっきり飛び蹴りをかます
妖精はしっかり蹴りを受け止めたが、やわらかい湿地で踏ん張りがきかずバランスを崩し、湿地に倒れた
男は起き上がる
妖精も起き上がる
礼
「ましたにけ、かくやおおしき、さむたにかづく」
妖精はそういって、男の前に跪いた
どうやら妖精は男を自分より上位の存在と認めたようだ
危ない、またこの島を危機にさらすところだった
べつに地の利を使うなというルールはない
誰かの背に乗って勝ち上がるようなやつだっているんだ、これぐらいなんてことはないだろう
とにかく、男は勝った
これで島は救われたのだ
かくして、ここに新たな森の生命が生れた



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