晴輪物語【始記】 60 わかちあうこと

物語

三象覚の誕生から一年くらいたった

晴れたある日の夜空

三象覚は星を眺めていた

二つの月をじっと見つめる

一つの目

その目は輝いていた

三象覚には星を観察する能力が身についていた

さらにその目を使い、気象観測も得意だった

朝から翌朝までずっと星をみていることもあった

これがこいつの「好き」なのだろう

 

この気象観測のおかげで、天気予報ができるようになった

まだ完璧ではないが、あるていど予想はできるようになる

 

いままで地面ばかりみていた男にとっては、空をみることを思い出させてくれたことに

感謝するしかなさそうだ

 

男にもだんだんと感覚ではあるが、天気を予想できるようになってきた

もうこの島に来て何年たつのだろう

だがおもしろくて仕方がないのだ

三象覚だけではない、国を作り、自然を知り、天気を知る

五感すべてをつかっている

生きていると感じているのである

 

彼は星空を観察して、比較的目立つ、明るく大きな星をいくつか見つけていた

そして勝手にその星に数字を振り、自分で東西南北それぞれの空でどんな星があるかを

頭の中で組み立てていた

つまり星図である

こいつは自分で勝手に星を名付け、星図にプロットしていた

機械生命とはなんなのだろうか、想像力もあるのか

それともこれは指揮官や移民船の知恵の模倣なのだろうか

いや、模倣なら、移民船にあるデータから星に名前を付けているはずだ

星座を当てはめ、この移民船のデータと同じものを再現したのではないだろうか

でも三象覚はそれをしなかった

番号だけつけて管理していた

なぜか

 

ある時、三象覚は男に話しかけた

「私の頭の中には、星の地図があります、それはこの島から見た星たちです

ずっと観察しています、星は綺麗です、あなたにもキレイをわけてあげたい

だから、名前を付けてください、この星たちに、この地図の上で」

男は呆然とした、こいつまさか、おれに名前を付けてもらうために、わざわざ番号を付けて

わかりやすく整理していたというのか

そんなことが起こりうるのか

そんなこと考えつくのか

なぜなのか、なぜそんな味な真似ができるのか

これも移民船のデータにあるのか

いや、これはこいつの心ではないだろうか

数えていないが、今日まででこいつが生れてから一年くらいはたっている

いわゆる自我というやつだろうか

それが星の名付け、という形でうまれたのかもしれない

男はお礼をいった

「ありがとう、ちゃんと考えて名前つけるからな」

 

ところが問題があった

男にはその星図を見ることができない

この人型は体は高度な技術の塊だが、情報を外に出す機能はない

つまり、画面やホログラムなどといった、外部に出力する技術はない

文字通り、口だけである

男はかなしかった

せっかく三象覚ががんばってくれたのに、それが見れないなんて…

こんなに悲しいことはない

だが男はめげなかった

 

出壁山脈を登り、頂上にある狼王の洞窟へ三象覚と共に向かった

洞窟の岩壁に三象覚が指示したところに男が星の位置を書き始めた

この洞窟に星図を書くのである

大きくて明るい星から順に書いていく

いったいいくつあるのだろう

それがおわったら名前を付けていくんだ

 

ひたすら書き続ける

疲れたら外にでる

また空を見上げる

 

山頂で見る満点の星空は、機械の瞳に新しい星の光を見せる

「あ、また新しい星、見つけました」

 

男と三象覚はまた洞窟に戻る

 

そしてまた一つ洞窟に新たな一点が書き込まれる

 

男はうれしかった

話し相手ができただけではない

新たな知識を知る喜びを、分かち合えること

この瞬間を共有できること

ただ男にとって、この瞬間が楽しいのだ

 

三象覚が生れてちょうど一年

こいつの誕生日の日の話である

 

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