晴輪物語【始記】55 囲炉裏会議

物語

男は宣言した

水葬が終わり

罪人の処刑が終わったいま

これまでの朝霧島の長い戦いは

ついに今日、終わったのだと

 

朝霧島は平定された

これからは機械生命による、新たな統治を進め

機会生命の文明を作り出していこうと

 

島の機械獣たちは安堵した

もう殺し合いをする必要はないと

もう仲間を失うことはないと

この島に待ちに待った平和が訪れた

 

男は続けて宣言した

島の統治組織を作ると

 

まず男は小さな組織を一つ、作った

「囲炉裏会議」である

ここに、熊・猿・鹿・猪・雀・竜・狼の7種族の長を参加させる

そしてこの7匹で、囲炉裏会議のメンバーとした

この7人の合議制で今後は物事を決定していく

この7種族を選んだのは、もちろん今回の戦いに大いに貢献してくれたからだ

奇数にしたのは多数決になった時でも決められるようにするため

もうこの長たちは、言葉をしゃべれるようになっていた

戦いの中で鍛えられたのかもしれない

怪我の功名というべきか、これが戦いで生き残るために得た知恵のひとつなのであれば

こんなに悲しいことはない

これからは、戦いの手段としての言葉ではなく、自分のことを話、相手の話を聞き

みんなと学ぶ中で言葉の力を得ていってほしいと男は願っている

なぜ囲炉裏なのか、答えは単純だ

 

戦後、男はたびたび話し合いをした

時には猿の中隊長たちと戦い方の打合せをしたり

時にはワコたちとじゃれ合った

そこにはいつも、真ん中に焚火があった

火を囲んで話し合うことが習慣になっていた

 

話し合いも進み、森の修復も始まってきたころ

男は川の基地の中に囲炉裏を作った

もちろん簡易なものだ、単に室内で火を囲うだけのようなもの

でもそれが暖かかった、幸せだった

火を囲んで話し合い、議論し、時には喧嘩にもなる

だがこれは戦いではない、島の未来を真剣に考えるからこその熱量

これが男はやりたかったのだ

これが囲炉裏会議である

 

会議とは言っても、べつに7人以外侵入禁止というわけではない

いつもと変わらない、族長以外も色々いるし、好きに発言してもいい

日常の議論の場に、名前を付けただけの話だ

特別なものにするつもりは全くなかった

ただ、森の民全員に、こうやって話し合って決めていくんだぞ

という姿を皆に見せたかったのだ

 

次に男は各地域に名前を付けていった

 

森林・草原・岩場、そして何より自然生命にあふれる朝霧島の北東地域は「活ヶ原」(かつがはら)

北西地域、樹齢数万年の巨大な機械樹が並ぶ静謐な森は「日ノ森」(ひのもり)

とくに日ノ森の奥にある機械生命の”終わりの地”は「朝霧の丘」(あさぎりのおか)

男が指揮官を倒したソゲキンギョが多く生息する川は「指揮川」(しきがわ)

あの機械兵士達を食った湿原がある南東地域は「兵食瀬」(へくぜ)

古代の移民宇宙船が墜落した南西地域は「落船」(おちふな)

移民船の周辺の森は「藤森」(ふじもり)

真樹周辺は「日和」(ひより)

 

とくに真樹、いまはオオヅツだが、この樹は「日和の大神樹」(ひよりのだいしんじゅ)と名付けた

むろん皮肉である、白竜を通じて名前を伝えられたご神木は大いに笑っていた

「そうやってのほほんとしているやつこそ、本気出すと怖い者なのよ!

名前で油断させておこうとはお主頭がよいの!」と、なんと前向きなお返事

 

男はちょっとからかうつもりでいやみを言ってみただけだったが、

思いのほかご神木はお気に召したようでそのまま採用となった

 

さて、つぎに男が取り掛かったのはその各地域の統治である

 

日の森は元々オオヅツの出身地であることもあり、熊族へ

朝霧の丘は太古の昔から守りは猿族だった

出壁山脈は狼族の縄張りである

兵食瀬は雀族がやりたそうだったから彼らに任せる

日和は竜族がもともと守り手だった

落船は猪族が希望した意外と新しい者好きのようだ

活ヶ原は鹿族だ、もともと機械樹の森を出て戻れなくなってしまったものを回収する役目がある

それぞれ統治を任せたのである

統治方法は囲炉裏会議と同様で、各々の種族が中心となり、領地を守ることとした

ただ、別に一つの地域に1つの種族しか住んではいけない、なんて決まりはない

だれがどこに住んでもよい、ただしその地域はこの種族に任せる、というものだ

もちろんここでも囲炉裏会議をしっかりやってもらう

会議にはそれぞれちゃんとしたものを派遣してしっかりバチバチ議論をしてもらうことにした

 

我々は戦って勝ち取ったのだ

この後も手は抜かない、自分たちの幸せは自分たちで追及するのである

 

そして驚いたことがある

活ヶ原は自然生命が豊富だが、鹿族はそっちの生命たちともうまくやっていた

なんか楽しそうなのだ、さすが島を巡って色んなものを見ているだけはある

生命に元の素材が何でできているかなど関係ないのだ

 

さて、ここまでで

①中央会議を決定、意思決定を一本化(囲炉裏会議)

②地域の名前を付けて管理しやすくした

③各地域に各種族の領地として与え、そこで生きとし生けるものすべての統治を任せた

これらによりひとまずの仕組みはできた

 

いわゆる中央政府である7匹の族長で構成される囲炉裏会議と

いわゆる地方政府である各地域の囲炉裏会議で仕組みは整った

ただし、仕組みといっても流れが決まっただけで、何をすればいいのかは決まっていない

その見本として、男は中央で組織を作ることにした

 

作る組織は3つである

①「棟」(むね) 公安・隠密・監視など情報に関するすべてを担う組織

②「座」(ざ) 行政・総務的ななんでも屋、地味だがとても大事なプロのデスクワークだ

③「石」(いし) 医療・教育・文化の作り、守ること、この国の根幹である

男はこれを族長囲炉裏会議の組織にして、人員配置を固めた

男はべつに細かいわけではない、ただ、情報が命であること、

みなの日々の生活を守るために行政が必要だとおもった、

ただそもそもが野生動物であるためいままで通りほっておけばいいがもしもの時のために、

けがの輸送や倒木洪水の際の避難など、中心的な役割が必要だと判断したのだ

 

 

だがこの医療技術と教育はこの朝霧島には不可欠である、医療はこの島の機械獣を大いに救った

これは今後も伸ばすべき技術である

さらに教育、もっと幼いことから言葉を話せるように環境を整えていく

そして文化、これこそが男がやりたかったこと、この島独自の文化をはぐくむのだ

なにも今は浮かばないが、こういうことこそが、島には必要である

現に戦いのあと、言葉が飛び交い、なんだか知能レベルがみんな上がったように見える

男は正直頭が良くない、ただ必要なのはわかっていた

彼らがただの野生動物ではないこと、言葉を話し、知能をもつからには

こういったことはいずれ必要になると考えた

 

各領の囲炉裏会議もこれに倣い、この3つの組織を作り、各々統治を始めた

 

統治といってももしもの時の備えくらいである

教育や医療はしっかりやるがそれ以外は対していままでとは変わらない

元が野生動物なので、制御しすぎる方がよくない

だから組織は作ったが、ゆるく、やるのがいいと男は思っていた

 

そしてやっと、男がやりたいことを進めるのだった

 

探検隊の創設である

 

 

 

 

 

 

 

 

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