衣食住はとても大事だ。
素人ながらそれぐらいは知っている。
男は冷静に今に集中することにした。
まず現状を整理しよう。
外部環境と内部環境で考えよう。
内部とは自分自身のことである。
持ち物は何もない。腕時計も財布もカギも携帯なにもない。
服と靴のみの大変身軽な服装である。
そしてここに来るまでの記憶がない。
だが月が二つあることに驚いたり、地球じゃないことに気づくあたり
一般常識はあるようだ、つまり部分的な記憶喪失である可能性が高いのでは…?
ここは考えてもしょうがないので後回しだ。
とにかく、今のところは健康な状態であるということが確認できた。
次に外部環境。
現在地はどこかの海岸から少し内陸に入った森の中の小さな洞窟。
海は青く、空も澄み渡った青空である。
雲は白く、森は緑色、砂は白、木の幹は茶色、風もゆるやかに吹いている。
空気も吸える、よし普通の自然環境だ。
月が二つあることを除けば…
さらに見回して初めて気づいたことがある。
虫がいない。たまたまだろうか。
洞窟なんてクモやらアリやらいるだろうし、浜辺ならカニとかなんかいてもいい気がする。
羽虫もいない。
まあそんな場所もあるのだろう。
というわけで、男は衣食住確保を開始する。
洞窟で衣食住のうち「住」は確保できたとしよう。
「衣」も今着てる服で我慢だ。
では探すべきは「食」である。
今日は森のほうへ向かうことにする。
途中食べれそうなものは拾っておこう。
男は洞窟を出て、森へ向かった。
洞窟の周りはすでに木々に囲まれている。
ひとまず海岸に背を向けてまっすぐ、ひたすら進む。
静かだ。鳥の声も聞こえない。風の通る音くらいか。
しばらく森を進んでいくと、山が見えてきた、まず高台を目指そう
男はそう思い緩やかな登りを歩いていく。
坂は長く続く、男の息が上がる。
昨日から何も食べていない、このままだとまずい。
早く水が欲しい。
麓の背の高い木々よりも高いとこまで来た時に、男は海のほうを振り向いた。
そこには広大は草原と森林と自分がいたであろう白い砂浜が広がっていた。
山と海と森が一面に広がる、見渡す限りの大自然である。
起伏があり内陸に進むにつれてだんだん標高があがっていくようだ。
平野というよりかは丘や山が多めといった感じ。
ということは、山間に行けば水があるのでは?
男は目を見開き、水がありそうなところを探す。
都合よく目覚めてくれ、野生の勘よ…!
きょろきょろをあたりを見回していると、キラッと何かが一瞬光った。
光の元に目を凝らす。
森の覆われている中で、一部木がないところがある。
もしかして、湖?池?水たまり?それとも葉っぱが光っているだけなのか?
などと考えることもなく男の体は光に目掛けて走り出していた。
まるで落ちていくかのように山を滑り降りていく
邪魔をするように前にでてくる木々をよけ、枝を手で払い、倒木を飛び越え
男は疾走する。
だんだんと見えてきた。
そこには小さいが湖があった。
男は湖に飛びこむ。
冷たい水が体にまとわりつく、心地よい快感に男はここにきて初めて笑う。
手で水をすくい、飲む、潜る、全身で水分を補給する。
こんなにおいしいものを飲んだことがない。
部活のあとに飲む体育館の冷水器の水以上にうまいものがあったなんて。
男は感動した。
一通り満喫したところで、男は周囲を観察し始めた。
よく見ると、水の中に生物らしきものが泳いでいる。
やっと生物を見つけた。
周りをみると、鳥もいた。
なんだいるじゃないか生き物が。
ということは、食料にありつけるということだ。
男は湖の近くに拠点を探すことにする。
湖を出て、周囲を散策する。
倒れた木には苔が生えていたり、岩にも苔がびっしりとついている。
ここは手つかずの自然なのかもしれない。
さすがは水場である、虫などがいる。
男はようやく安心した。
別に人間に会えたわけでもないが、なんとなく孤独から救われたような気がした。
そういえば虫は栄養になると聞く。
そしてキノコのような植物も食料になるらしい。
腹を下すと大変なのでその辺は慎重に行こう。
湖の周りを歩いた結果、これまた都合よく穴を見つけた。
一旦ここを拠点とする。
そして男は木の実などの採取を始めた。
へびいちごみたいなやつとか、食べれそうなものはかたっぱしから採取する。
ズボンのポケットに木の実などを入れていく。
正直どれが食べれるものなのかわからない。
味見していくしかない。
湖の拠点に戻り、成果物を広げる。
見たことあるやつからおそるおそるつまんでいく。
おいしい、このへびいちご。
他にもいくつか食べれるものがあった。
水と食材を少し見つけた男は、生きる可能性を見出したせいか少し安堵した。
だんだんと面白くなってきた男はまた果物に手を伸ばす。
思い切り噛みつく。バリッ。
聞いたことのない音がした。
まるで古いプラスチックが割れるような音。
植物から出る音ではない。
不思議な音に驚きつつも、男は歯で噛んでみる、バリバリ、、パキ、、
さすがにおかしいぞ、口から出す。
手に乗せて観察する。
見た目や色はトマトのような感じだが、固い。
そして果汁は油のような味がして、実の部分は味がしない、まずい。
触感もバリバリと固い。
トマトもどきの実をほぐしてみると、バリバリという音と共に油のような液体が出てきた。
まるで赤いプラスチック、いや金属か、、でできているようだ。
実の一番奥にビーズのような小ささのさらに赤い球がある。
興味本位で、奥歯で噛んでみる。固い。しかも大きさのわりに少し重い。
男は混乱する。これは植物なのか?ブリキのおもちゃか何かか?
だが食える実も確かに存在する。このトマトはおかしい。
というかこんなところにトマト的な実がなっているのも何かおかしい。
さっきまで全く不思議に思わなかった。
よしいったん落ち着こう。
まずこれを食べきって、、じゃない。これはわきにおいておいて
食べれるものと食べれないものを選別しよう。
結果として採取した果物・木の実のうち、半分は食べれる、もう半分はトマトもどき同様
金属だかプラスチックのような素材だった。
そして固い種のようなものをどの実も持っていた。
金属なのか固い皮がミルフィーユのように積み重なっている。
男の混乱は収まらないが、ひとまず食料と水は確保した。
このトマトもどきについてはおいおい考えるとしよう。
まずは生き延びることが先決である。
まだ日が高い、今のうちに、拠点から水場へのルートと、”食べれる”木の実や果物の生えていた場所を
頭に叩き込んでおくため、男は拠点を出て歩き出した。
ひとまず食料ルートと水ルートは把握した。
道中でトマトもどきの木も観察してきた。
見た目はどう見ても普通の木だ。触っても違いがわからない。
斧でもあれば切って調べてみることもできそうだが、いまはそんなものはない。
今は生きることが先決だが、毒とかではなく金属やプラスチックなど、物理的に食えないものがあるとは
思わなかった。
普段なら驚くところだが、どこか冷静なのはなぜだろうか
自分が極限状態だから、これ以上のものがないということか。
まあ月が二つあるんだ。へんな植物があったって驚きはしないということなんだろう。
男は無理やり自分を落ち着けて、湖の拠点に引っ込んだ。


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