晴輪物語【始記】 11 「オオヅツ」

観光

森に入ってしばらく経つ。

男の想像どおりなら、現在地は時計でいうと12時あたり。

つまり島のほぼ真北にいるはずである。

そこから西に向かって森を進んでいる。はずである。

 

なぜこんなに自信がないのか。

それはこの森が深すぎて、空が見えないから。

方角がわからなくなってきているから。

 

よく年輪で方角がわかると聞く。

年輪の輪と輪が広いほうが南だとか…

 

だがこの森は違う。

何がって、植物ではないのだ。

そう、久しぶりの機械の植物群である。

 

今まで探検していて、あのトマトもどきの森以降、ほぼ機械は見かけなかった。

ところがここへきて突然の機械の森。機械樹とでも呼ぼうか。

この機械樹林はとにかく深い、葉が大きく、樹木の背が高い。

幹も太く、樹齢1000年越えのエリートで構成されているような森だ。

もちろん倒れたりしている木もある。そこから新たに木が生えたりしている。

だがその木々はすべて金属でできている。

なんなんだ、あの湖と比べてもここの植物は機械感が生々しい

見た目はほとんど植物の木と同じなのに、折れた中身は金属らしい鋼色で

粒がついている。これはもしや核なのだろうか。

 

機械トマトや機械小鳥と違い、小さい核がまばらにある。

樹木の場合はこうやって心臓部を分散することで、命を守っているのかもしれない。

賢い、、だが変だ。もう生き残り方が生物のそれだ。

機械ではないのか?

何がこいつらをそうさせるのか、生存本能でもあるというのか。

しかもこの森、地面にはふつうの植物も生えている。

光が届かないため薄暗いが、苔のようなものだったり、下草や蔦のようなもの

これは生の植物だ、機械じゃない。

けど、一部機械というわけでもない、機械は機械、生はナマだ。

お互いが絶妙の距離感で共存している。おかしな森だ。

ただ、木はすべて機械樹のようだ。

そうでなきゃこんな巨大な形は保てないだろう。

 

などと観察しながらブツブツつぶやいているうち、見事に方角を見失った。

方位磁針もないんだ。そりゃそうだろう。

ただ、仮に方位磁針をもっていたとして、ちゃんと動くかはわからない。

こんな機械の塊に囲まれてまともに機能するのだろうか。

 

水たまりですら機械に見えてくる。

いや、これは本当の水のようだ。

この木は水をすうのだろうか。。

 

などと考えていると、一瞬の振動に足が止まる。

おれか?俺の足音がでかかったか?男はあたりを見回す。

いや自分しかいない。

 

だが振動は続く。

水たまりを見ると、水面が揺れている。

足音に合わせるように。

 

こんな描写は恐竜パニック映画でしか見たことがない。

 

だがこれは現実だ、あの映画のように棒立ちになって黙って食われたりなどしない。

だいたいそんなパニック映画みたいな展開が起きてたまるか。

もしかしたらロボット戦士かもしれないだろ。

ビームサーベルもって、一つ目で、、

 

などとつぶやきながら木陰に隠れる。

 

その足音が近づいてくる。

すると突然静かになった。

 

男は森の先をじっと見つめる。

 

風が森を優しく吹き抜ける。

葉が、ゆらゆらと揺れる。

隙間を見つけ飛びこんできた陽光が、葉にあたりはじける。

 

周囲を見渡す。

揺れていない機械樹があることに気づく、ちょうど陰になっている。

目を凝らすと木と目が合った。

 

それは木ではなく、獣だった。

合ったのは目だ、目を開けたのだ。

 

足音が消えたのはこちらに気づいているからなのか?

でも目があった。やばい。

だが男はもう動けなかった。

 

その場に根が張られ、立ち上がることも、這うこともできない。

完全に腰を抜かしている。

 

ただ見つめることしかできない。

獣はゆっくりとこちらに向かってくる。

でかい樹木と思っていたら、それは大きな熊だった。

 

何メートルあるんだ、どこの機動戦士なんだ。ダンプカーか。

四つ足でこれだぞ。おかしい。

 

恐竜がかわいく思える。

一回りはでかい。

 

男は完全に恐怖にまみれていた。

もう距離感も壊れている。

近いと思っていたが、少し離れていた。

とはいえ、目がどこにあるかはわかるくらいには近い。

 

熊はこげ茶色で目は深い黒、四つ足でゆっくりと西へ向かっている。

こちらの後ろにいたようだ。

 

男は直感で気づく、こいつはナマモノではない機械だ。

なんだろう、生命体であるのは間違いない。だが、人間や動物にあるだろう

真ん中にある熱い何かを感じない。単なる感覚的な話だ。

これが魂だとでもいうのだろうか。

巨大はブリキが動いているような、パレードでも見ているような。

生命力を感じない。

そして向こうも、こちらを獲物としては見ていない。

むしろ小石くらいの感覚でいるような。

住む世界が異なるということなのだろうか。

ゆっくり前を通り過ぎて、熊は西へ進む。

 

次の瞬間、熊は突然立ち上がり、雄たけびを上げた。

ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

そして走り出す。

先を見ると、シカのような、オオカミのような

よくわからないが少し小ぶりな(この熊と比べて)四足獣がいた。

ドンドンと大砲のような足音を鳴らしながら、獲物を追いかけていく。

 

巨人の戦争が終わったあとのヒト族のような気分で、男は木陰から出る。

ちょうど先ほどの水たまりをあの熊が踏んでいったようだ。

その大きさは男が大の字になったのと同じだった。

 

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