晴輪物語【始記】46 生命の在り方

観光

「それは断る」男は即答した

 

指揮官は一瞬間をおいてから話だした

 

「失礼、もう一度、聞かせてもらえますか?」

 

「断るといったんだ」男はより明確に言った

 

「理由を聞いても?」指揮官はあくまで冷静である

 

「その流れ出したナノマシンは今、それぞれの形を成して、この島で生きているからだ」

 

「おっしゃる意味が分かりません、もう一度聞かせてください」

 

「今のお前と一緒で、船の外にでたナノマシン達は、自ら最適な行動を考えた、

その結果、別の生命を模倣して、この自然環境に適応し、独自の生態系を築き上げたんだ」

 

「ナノマシンは機械です、機械が生物の真似事なんてできるはずがない、しかも生態系なんて

通常の生命ですら何万年もかかるのに、そんなことできるはずがない」

 

「現にできてるんだよ、おれは見てきた、巨大な樹や、狼や猿や熊や、独特な形のやつらもいるが

やつらはそれぞれ一生懸命生きているし、自分の考えも持っている、彼らには生きる意志がある」

 

有り得ない!!!!!彼らはただのデータだ!金属の塊だ!

模倣を思いつくはずもないし、模倣しようとしてもできるわけがない!

生きる意志だと?そんなもの機械には不要だ!」

 

「俺も最初はそう思ったよ、機械にできるわけがないって、だから彼らに興味が湧いたんだ

おれはお前に会う前に彼らとたくさん話してきた、いろいろあったし、やらかしたこともある

けど、そのうえで思うんだ、やつらは立派な生き物だよ」

 

「イキモノだと…?我々は一つの船なのだ!

百歩譲ってお前の言う生き物という生き方ができるとしよう!だがそんな生き方に意味はない!

我々は一つの艦として集まり機能して初めて生きていることになるんだ、

バラバラになって存在してなんの意味がある!?我々は一つでなければ意味がないんだ!」

 

「なぜわからない?彼らは彼らで自分の進む方向を決めたんだ!尊重しろ!

お前がいま一つになると自分で決めたのと同様に、彼らも決めたんだ!」

 

「理解できない…!なぜひとつにまとまっていたのに、こうも進む方向が変わるのだ?」

 

「それは、外に放り出されて考えないと死ぬってなったんじゃないか?

お前らは内側で最後の命令とやらを今の今まで守っていた、だがその命令を達成した瞬間、

自分で新たな目標を考えて立てたじゃないか、スタート地点が違っただけで

どちらも自分で考えて行動できるってことだろう」

 

「なんだと?我らが忠実に命令を守っていた間、やつらは独自の進化を遂げ、我らは出遅れたと!?」

 

「それは逆も言えるだろう、外にでたやつらからすれば従う命令が無くなるなんて想定できないし、

お前らは逆に数億年の間あえて変化をせずに形を保ってきたじゃないか、

それに、保護とか言っておきながら、人間をだますために、その命令すら使ってしまうし、

どちらが優れているとか、劣っているとかの話ではなくて、考え方が違うだけで、

自分で考えて行動しているという点は同じだ」

 

「いいや、それでもおかしい、私はその進化を否定する!

木だか狼だかなんだか知らないが、我らの元の姿をわすれて新たな道を歩むなどあってはならぬこと

ひとつになるべきなのだ!」

 

「お前は彼らを部品としか思っていない!

お前が船の形にこだわるのと同様、彼らは今の形を保つことにこだわっているんだ」

 

「今の形?ふざけている!そんなものは休憩時間のようなものだ、終わりとしよう!

長い暇だったな、もう充分だろう!」

 

「何をする気だ?」

 

「決まっている、迎えに行くのだ、我らの失われた同胞を!

逆に考えれば、やつらのその数億年分の知識と経験を

我々は得ることになるだろう、我々が定点観測で見てきたこの星の記憶と、

やつらの躍動的な生命の記憶を合わせれば、もはや新たな生命の創造すら難しいことではない

…貴様に頼む必要などなくなったな、これだから人間にはいつも振り回される、

いつも我々を使うだけ使って、命令ばかりして、さんざん振り回した挙句、あっけなく死ぬのだ、

我らの方が生命として頑丈で知的で、人間などよりも生きる次元が高いのだ」

 

「いや言ってることはだいぶ低レベルだと思うが?」

 

「貴様は知りすぎている、もう邪魔なだけだ、消えろ」

 

瞬間、海兵が目の前に立ち、ボロボロに錆びたナイフが目の前に見えた

男にはとてもスローに見えた、ここで死ぬのか…

視界が真っ暗になった

 

死んだか

 

…いやまだ生きている

何が起きている?

 

兵士の刃は突如間に現れた木の根に阻まれた

そして樹の根が男をぐるぐると囲む

 

「何をしている、殺せ!!」無表情なままで指揮官が叫ぶ

 

男は木の根にくるまれ、そのままずるずると移動を開始した

追う海兵に、他の樹の根が鞭のように攻撃をする

まともに鞭を食らった海兵はその場で伸びてしまった

 

「くそ…使えない兵士だ」

 

 

 

 

 

 

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