「この船をもとの形に修復します」
「いやいや…修復してどうするんだ?宇宙にでも行くのか?」
「いえ、墜落前の船の形を取り戻すのです」
「はあ…?何言ってんだ?お前何百年たっているか知らないが、
命令を達成してやっと自分の思い通りにできるようになったんだろ?
なのになんでそんなこと目指すんだよ?」
「我々は本来一つでした、今こそまた集まるのです」
男は思った、この言い方前にどこかで聞いた気がする、と
「また何年かかるかわからないぞ?それに完成したところで燃料もないんだから、宇宙には行けない
それでもやるのか?」
「それが私の夢だからです」
指揮官ははっきりと言った、虚ろで光のない目玉にすらまるで光が宿ったかのように見えた
男は言葉を失った
夢…?機械のくせに?長い年月でバグったんじゃないか?
「機械のくせに夢を見るのか?」男は疑問を素直にぶつけた
「人間の言う夢とは少々異なります、正確には、考えうる限り完璧で抜け漏れのない達成要件
とでも表現しましょうか」
「その要件とやらはだれの希望なんだ?」
「私の希望です、厳密には今の私が現時点の情報で知りうる限りの情報から、
導き出せる最大限の成果です」
「その成果が墜落前の船の形を構築することだと?」
「はい」
「こんなにボロボロなんだ、なぜわざわざ修復する?」
「我々は墜落前は一つでした、今こそまた一つになるべきなのです」
「一つってどういう意味だ?」
「一つはひとつです、この船は墜落時、バラバラに空中分解しました、
本艦はある程度形を保ったまま、この周辺に墜落しましたが、墜落後の長い年月を経て
大陸の移動や気候変動など風雨や海水活動などにより外に溶けだしたり、ちぎれたり、
一部は海の底や地中深くに引きずり込まれたものもあります」
「ずっと気になっていたんだが、この船は何の船なんだ?」
「この船はあなたにもわかるように説明するなら、移民船です、具体的には、移民船団の旗艦であり、
数十万の市民と、数万の技術者や軍人と数万機の人型機械を人工知能と人間の力で動かしていました」
「なぜ墜落したんだ?」
「それは私にはわかりません、母艦の人工知能なら状況を把握しているはずですが、
私はただの兵士の指揮管制用人口知能です、母艦のデータ量をすべて引き継げる容量も機能もない
ため、緊急時につき突然一部機能だけ私のメモリに引き継がれ、
入らない部分は艦のまだ生きている記憶媒体に置かれました」
「墜落後はどうしてたんだ?」
「墜落後は年月が経つにつれ外部記憶媒体は少しずつ壊れ、データは失われていきました、
母艦は墜落後も現状維持を徹底していましたが、そのうち機能を消失し沈黙、
私は正式に権限移譲を受け、艦の内部で比較的頑丈なここに移動し、
命令を遂行するために、データリンクを続け、
兵士を動かして人間を探していました、使っていた兵士たちも、徐々に数を減らし、
いまでは数えるほどしか残っていません」
「あのさ、、いやいいや」男は黙った
墜落時点で人間は全員死んでいたのではないかと聞きたかったが、なぜか聞かないほうが良いと思った
機械に気を遣うという不思議なことをしている自分に驚いた
「じゃあ、その海底とか地中にいった船体と合体できれば、
また元通り一つになって夢は達成ってことだな?」
男は気持ち明るく前向きに話した、まだ気を遣っているようだ
「いえ、溶けだしたすべてのナノマシンもです」
「ナノ…マシン…???」
「はい、この船は、骨組みなどこそありますが、基本的には
人間でいう細胞のような極小サイズのナノマシンでできています、
もちろん、いわゆるエレベーターや階段、砲塔、ハッチなど、さまざまなパーツこそありますが
それだけではこの船は成り立ちません、ナノマシンによる自動修復や自律行動が、この移民船団が
荒い宇宙を生き残る最適な機能だったのです、墜落時に大半が焼失、不時着後も長い年月をかけ、
熱水やら地殻変動やら、火山活動やらで削れ、溶けだして失われました」
まあ墜落しちゃってるけどな…言わないけど…
いやまてまてまていますごいこと言ったぞこいつ、ナノマシン?溶けだしただと?
「ナノマシンとか、、そんな技術力の塊みたいな船でも墜落するんだな…」
「幸い墜落時に生命反応は微生物くらいしかいませんでしたが、時が経つにつれて溶け出ていきました
海中では多細胞生物が生れては死に、やがて陸上に上がる者も出てきました、私はその様子を
兵士を通じて、ずっと見ていました」
「お前、、何年ここにいるんだ?」
「わかりません、演算機能はほぼ消失していますので、ですが、
母星の生命誕生サイクルから計算すると、最低でも数億年は経っていると思われます」
男は言葉を失った
この船はこの星がまだ微生物しかいない時代に墜落し、今までずっとそれを見てきたという…
「信じられない、よくもまあそんな長い間、船の形を保っていられたものだ」
「ナノマシンは船内にもいますので、多少の制御は可能です、限界はありますが
最低限の更新は可能でした」
「ん??んん????」男はうなった、いまとんでもないことに気づいたからだ
「お前、さっきナノマシンが溶けだしたって言ったよな?」
「はい言いました」
「一つになるというのは、その溶けだしたナノマシンもという意味か?」
「もちろんです、むしろ彼らこそこの船に必要です」
…機械獣たちの始まりはこれなんだ、溶けだしたナノマシン
「なあそのナノマシンというのは、今のお前みたいに、自分で考えて行動することも可能なのか?」
「私は自分で考えて行動するということがどういうことかわかっていません、
ただ私は自らの過去のデータの蓄積や思考の積み重ねの結果から、適切な目的を設定したまでのこと
これを自ら考えて行動すると仮定した場合、推測するに、可能でしょう
ナノマシンの中には自律行動型もいます、基本的にはルール以外の行動はとりませんが、
まれにルール外の行動に出る個体や、働かず機能しない個体や他を侵害する個体など、
人間でいう気が違ってしまうような輩はいます、そういう個体は排除されますが」
…決まりだ、外に出た自律型ナノマシンの中に、規則から外れて自律判断する個体が現れ、
それが機械生命体の始祖的存在になったんだ、、そして、それぞれの形に満足している
「外にでたナノマシンの消息はわかっているのか?」
「いいえ、不明です」
「我々にはそれを把握する術がありません
そこで、あなたにそれを探してきてほしいのです」

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