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晴輪物語【始記】47 日和見の樹 | 晴輪物語

晴輪物語【始記】47 日和見の樹

観光

木の根にくるまれている男には何が起きているのかさっぱりわからなかった

だが、外からはなにか音が聞こえる、もしかしたらさっきの兵士が攻撃を続けているのかもしれない

よく見ると、この木はナマモノではなく機械樹だった、こんなに柔軟に動く樹を男は知らない

などと考えていると、移動が止まった

と思ったら、鈍いゴリゴリという音ととともに移動がゆっくりになった

まるでドリルで穴を掘っているかのような気分だ

 

さてこの道中で整理しよう

どうやら船側の親玉はあの指揮官とやらのようだ

兵士は駒に過ぎない

そしてあの指揮官は機械生命をすべて屠ることで、ひとつになり、またあの船の形に戻りたいらしい

それがあいつなりの生き方の様だ

だがそれは、自ら道を切り開いた機械生命からすれば、かなり一方的な話である

当然受け入れられるものではない

男自身も受け入れられない、そんなことできるはずがない

だから残念ながら、相いれないのだ

だがここからはもはや生存競争の始まりである

負けたほうが駆逐され、吸収され、一部となる

それはこの島の機械生命が数億年をかけて独自に育んできた生命の循環そのものである

言ってしまえば指揮官側も同じく独自の生命の循環を持っているといってもいい

それぞれの意思のぶつかり合いなのだ、これこそが命のやり取りである

そして男は見事に殺されかけた、勝たねば男も命はない

ぶるぶるっと体が震えた、これはビビりか武者震いか

そんなことを考えているうちに動きが止まった

根が緩くなっていく、隙間から明るい光が差す、外だった

出ると、なんとそこには真樹がいた、横には白色竜もいる

なんと、男はあの南の端からここまで地中を引きずられてきたのだった

 

聞きたいことが山ほどある男をよそに、白色竜が話出す

「全部聞かせてもらった、おぬしなかなかやるではないか」

 

「全部とは?」男はきょとんとする

 

「とぼけるでないわ!先ほどの人型の親玉との問答じゃ」

 

「え?どうやって聞いてたんだ?」困惑する男

 

「我々は人型は怖くての、近づけなんだ、ただこの真樹様は怖い怖いといいつつも、しれっと根だけは

あの船に入れておったのよ、ほっほっほ」

 

「真樹は話せるんだっけ?」

 

「わしと一部の者は話せる、古い友だからな、褒めておったぞ、おぬしのことを

騙されて懐に入って喧嘩売って帰ってくるとは大したもんだとな、わっはっは!」

白色竜は豪快に笑う、こいつこんなやつだっけか

 

それにしても真樹は怖がっていたのか、その割に根だけは船に入れておくとは

老練なだけはある、といったところか

 

「真樹様のおかげで、この島全体にそなたらの会話は届いておる、

そのうえで、わしらはそなたを助けたのよ、どうじゃ、感謝しろよの」

 

「いや違うだろ?ギリギリまで話を聞いてどちらにつくか考えてたんだろうが、

初めから味方に付くならもっとできることがあったはずだ、この日和見どもが」

男は思ったことをそのままいった、

事実、罠であることが分かった段階で男はこの後が予想できなかった

指揮官が取引を持ち掛けてきたからなんとかなったものの、

それ以降はいつ殺されてもおかしくなかった

 

「うはははは言うようになったの、修羅場くぐって一皮むけたか」

年寄りの白色竜は余裕である

 

「それもまあ当たらずとも遠からずといったところじゃ、だが最後まで話を聞いて、

そなたの味方に付くのが正しいと判断した、これは真樹様の意思じゃ、真樹様の意思は

森の意思、森の意思はこの島の生きとし生けるカラクレモノの意思と心得よ」

 

カラクレモノとはカラクリの言い間違いだろうか、まあいいや

つまり、機械生命体ご一同の意思という意味だろう

 

「正直に言えば、最初からそなたの味方であったわけではない、これは事実だ

場合によっては、あちら側につくことも十分考えておったとも、

森の将来がかかっておるのだ、それぐらいしてもよかろうが?」

白色竜は先ほどのにこやかな顔と打って変わって据えた目で男を見つめる

 

「…じゃがそなたが煽りまくってくれたおかげでより彼奴の腹の底が見えたというもの

わしらはよくもまああんなものと一緒にいたものよの」

 

「お前らは実際どう思っているんだ?あいつのことを」

 

「知らん、わしらがミナから聞く中にあやつは出てこぬ、おそらく小物であろう

ただ、母艦からの引継ぎを終えているということは、いま艦の指揮権はやつにある

いままさに地下でやつはブチぎれているところよ、真樹様の根がいくつかやられた

ここからはわしら森衆とあやつら船衆との生き残りをかけた争いであるぞ、覚悟せよ」

 

「わかっている、これから俺はオオヅツを呼びに行く」

 

「オオヅツとは何者じゃ?」と白い竜

 

「北のでかい熊だ、俺が名付けた、指揮官の連れている兵士はあの船の現役の機械兵だ

並みの戦力じゃ相手にならん、オオヅツでも当てて戦場を混乱させないとだめだ」

 

「ははははははお主一皮どころか五皮ほどむけたのではないか?

少し前のおどおどしていた時とは別人ぞ、まああれはあれでよかったがの

オオヅツという名はなかなか良いな、あやつなら気に入るであろう」

 

「あんたこそ、今の方がいいよ、ちょっと距離感がきもち悪いけど」

 

「良き良き、今日は良き日じゃ、さて、前座はこの辺にして本題に入ろう

まずお主はこれから北へ向かえ、北の森とお主の自警団で迎撃態勢を整えよ

おそらく真樹様の根を見た船衆は、真似をしてくるだろう、根っこのようなものを出してくるはずだ

それはこの南の森と真樹様で抑える、大技を抑えられたら、次は例の兵士が出てくるだろう

それはおぬしらで何とかせよ」

 

「じじいどこまで見えてやがる?」

 

「口調まで変わったか、おもしろい男ぞ、すべては森の導きである、努めよ若造

…ああそれから、これを持っていけ、きっと役に立つ」

 

木の根の塊が男の目の前に現れる、するするとほどけた中に一本の剣があった

男は気付く、これはおれが湖に住んでいた時に作ったナイフだ、だがずいぶんと大きくなっている

小刀ぐらいのものだったはずだが、これはもう刀である

てゆうか気づかなかった、どこかで落としたようだ

 

「良いものを素材にしたの、ただあれは繊細な葉ゆえ戦いには向かぬ、だから形を似せて、

新たに作ったのだ、芯鉄には北の大鹿の角と北の大熊の爪を混ぜ、

それに樹齢万年の森の樹々の皮を重ね、数回折り返している、鍔は狼の山の参三鉱を用い

握り手は南の森のカラクレを装飾している、鞘は藤の森の皮でできている

どうじゃ美しいだろう?誠の一品ぞ、これでやつも切れるというもの」

 

「ありがとう…」男は泣き出した

なんだろう、先ほどまでイライラしていたが、この刀はそんなすぐに作れるものではない

いつから準備していたのだろうか

 

「申し訳ない、先ほどは失礼だった」男は詫びた

 

「よいよい、わしらはそんな些細なこと気になどせん、さあ行け、竜を貸そう

ここからは時間との闘いだ、真樹様によれば、すでに船から兵士が出てきたそうだ

急げ」

 

「わかった!ありがとう!」

男は竜にまたがり颯爽と走り出した

 

その時地響きがして、南の森から触手のようなものが何本も生えてきた

これがあの白色じじいの言っていた、真樹様の真似事か

確かに根に似ている、どうやら戦いが始まったようだ

 

男は刀を腰に佩き、森を駆け抜けた

 

 

 

 

 

 

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