晴輪物語【始記】13 いっぽ

観光

潮の香りがしてきた。

オオヅツを追いかけていたら、どうやら島の端まできたようだ。

ここはどこだろう。

 

崖の先に立ち、大海原を見渡す。

絶景かな。他の島は何一つ見当たらない。

男は西を向いているはずだ。

崖は高く、下は飛沫や霧で見えない。

ここにあの大熊を落としたら、倒せるかもしれない。

だが、観察ができない、それはもったいない。

 

男は崖沿いに歩いてみることにした。

この崖はずっと続いている。

西側といったが、厳密にいうと島の北、北西あたりだろう。

時計で言えば11時あたりか、どうやら真西に進んでいるかと思いきや、ずれたようだ。

足跡はこのあたりで途絶えている。

隠れてしまったのか。まあいい、生息地域がわかっただけでも良しとしよう。

 

しばらく歩いていくと、島のほぼ西に近づいてきた。

島の東側は砂浜で、内陸部はまばらに森があるがほぼ草原だった。

東から北の沿岸部は岩だらけで、内陸部は地面がほぼむき出しの多少起伏のある

サバンナのようなところだった。

そして北から西の沿岸部周辺にかけては東とは打って変わって重厚な森林である。

 

そして島の西側にたどり着こうとしているいま、男の目の前に広がるのは

巨大な山脈だった。

山頂付近が白い。標高が高いのだろう。

遠くに見える山々はずっと東の方まで続いている。

 

東にいた時は見えなかった。

おそらく島の中心部付近にかけて大きな山があるのだろう。

島の上半分を回ってきたことになる。ここまでは島である。

ここからどう回るか。

 

男は悩んだ。

引き返すのもつまらない。

かと言って森の中に入るのもなかなか勇気がいる。

 

だが男は思う。

今までが順調すぎたのだと。

遭難してから、現在まで、いちおうサバイバルできている。

さっき死にかけたが、それでも初めての出来事だ。

普通、死んでいるはずなのだ。

木の実や果物、たまに蛇とかばかり食っていて、生き続けられるとは思えない。

おそらく精神的に高ぶっているからなんだと思う。

 

だからと言って、今のままでは、生活はよくならない。

安心して過ごすこともできないし、安定した衣食住なんて夢のまた夢だ。

願いをかなえたいのなら、試し続けることが肝要である。

質か量か。いまは量の時期だ。

 

たくさん試して、たくさん失敗して、経験して、知識を得て、、、

その上に閃きが起き、奇跡が起きる。

 

何もしていないのに奇跡が起こることはない。

それは単なる錯覚である。

 

ではどうするか、今こそ量をこなす時。

ここでの量は何か。

そう、森に入ることだ。

オオヅツほどの者はさすがに無理だが、戦い、鍛えるべき時なのかもしれない。

その中で防具をそろえ、武器を作り、体を鍛え、戦いを覚える。

この先、このわけのわからない世界で生きていくためには

いずれ通る道であると、男は直感していた。

この森はあの山の麓まで続いている。

 

男は決意する。

山の麓まで向かい、その後は麓沿いに東へ向かう。

そして東側から、島の南部に入ろうと。

そこまでの道のりはつらいものになるだろう。

死んでしまうかもしれない。

だが、偶然拾った命だ。

もちろん無駄にする気はないが、ぬくぬくと温室にこもる気もない。

こもってしまったら、どんどん弱くなってしまう。

野菜は水を減らすと甘くなるという。

人間にはある程度の刺激やストレスは必要である。

そして、この石器時代のような世界を生き抜くためには

強く賢く強かにならねばならない。

そのためには、環境に飛び込まなければならない。

死んでもかまわない、とは思っていない。

だが、自分から踏み出さねば、変えられない。

自らを好きになれない。

人生は自分を好きになるためにあるのだ。

だから、自分探しをする。自分で自分を知るために。

遅すぎた思春期だ。

 

良いだろう。そんな人生も。

気づけば日は傾き、オレンジ色の光が男に降りかかる。

 

男は山へ向かって歩きだす。

あの時へたり込んで何もできなくなっていた自分を救うために。

強くなるために。

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