「わしは大嵐の中で、産まれた」
狼の王は静かに自分の話をし始めた。
風が叫び、雨が躍る、森は騒いでいた
そんな中でわしは生まれた
わしはミナから生きる術を教わった
狩りを学び、森のことを学んだ
ミナは教えてくれた
我々の始祖は初めてこの世界に来た時、今までの生き方でやっていけると思っていた
だが、それは間違いだった
ここでの生き方を知らなかった
そのせいで大勢の仲間が死んだ
このままでは我らは絶えてしまう
だから、自分とは別の存在から生き方を学んだ、と
始祖とは我らの大元、ミナとはその始祖から初めて自ら考え行動した者たちのことだ
ミナは一つだけではない、だがわれわれにはそれがいくつであろうがどんな大きさであろうが関係ない
ミナは初めて今までと異なる生き方をする判断をした
その道のりは険しかった
多くの試行錯誤を経て、やっとたどり着いたのが
別の生命を真似ることだった
真似ることも簡単ではない
別の生命はいともたやすく行っていることが
我々にはできなかった
また多くの仲間が死んだ
残り僅かとなった時、ミナは初めて生き方を会得した
我々はすべてこのミナの系譜に連なる
ミナは当時存在した生物を模倣していった
その結果、姿形は同じでも別の生命と我々でそれぞれ存在することになった
だが二つは共存ができた
生きる理由が異なるからだ
そしてミナの教えを我ら全員で行動に移した
結果、この島には多くの同胞が生れ、絶滅の危機は去った
ところが新たな問題が起きる
別の生命が勢いをなくし、ほとんどいなくなってしまったのだ
最初に学んだ我々は形を成していた
だが、後から生まれた同胞たちは、学ぶ相手がいなくなってしまった
そこで、自らの考えに基づき、生きようとした
そして我々とは異なる異形の同胞たちが大勢生まれた
彼らはいわゆる生物の形を成していない
我らは口があり耳があり、足があり尾がある
体は限りなく別の生命と同じだ
しかし彼らは違う
口も耳も足も尾もない、ただ各々が是とする形を成している
狩りの仕方も独特で、決して別の生命がやるような方法ではない
その独創性から異形の者は爆発的に増えた
だが、動きが遅く、我々の恰好の餌食になった
そのため一時期は我々より数が多かったが
徐々に減ってきた
「これがキノメヅか…」男は想像した、異形といえば思い当たるふしがある
次に現れたのは、我々と異形の間の同胞だ
彼らは二本足で歩いた
あいた足でモノを持ち、木に登り、跳ね、足で駆けるようになった
形も小さく、すばやく、頭が良く、集団で行動する
「ああ、これは猿たちのことか…」男はつぶやいた
わしは狼の生命を模したミナから生まれた者だ
もう無限の時間が経っている
今わしと同じ時代の者といえるのは、森と北の大熊と南の真樹だ
他はとるに足らない、ガキなのだ
我らは我らなりに進化を遂げた
だが……
南のあの人型だけは違う
ただの一度も、姿が変わっておらぬ
ただ数が減っているだけだ
彼らの目的も何をしているのかもなにも知らない
我らと同じ体のようだが、中身は全く異なるものだ
彼らこそ異形ではないだろうか
わしは彼らを避けてきた
別の生命とも違う存在だからだ
そなたとも異なるようだ
最初はやつらの仲間かと思った
やつらは同じ言葉を決まった順番で話す
会話ができない、単純なやつらなのだ
我々には理解できない
だが下手に触れると攻撃され、その力は絶大だ
だから近寄らない
「なぜミナは必要だったのですか?」
しばらく黙って話を聞いていた男が疑問を口にした
「ミナは始祖の一部で、何もできず次々と死んでいったものの中で唯一、
自ら考えて、初めて我らの目的を定めたのだ」
「目的…とは…?」男が聞く
「われらは今まで一つだった、それが突然散り散りになり、つながりが切れてしまった
突然のことに多くの者が戸惑い、自ら動けず、なにもできずに死んでいった、だがミナは違った
その混沌の中で、唯一、我らにこれからの提案をした、しかも具体的に、それはまず集まること
次に、形を保つこと、そして継ぐこと」
「集まり、保ち、継ぐこと…?どういう意味ですか?」
「集まった結果、はじめは目にも見えないような小さな存在だったが、次第に大きくなり
我であれば今の狼の姿となった、そしてわれの体は多くの同胞たちで形作られている
この形が今の我々の保つべき形であり、形ができた者からミナとなり、新たに形を作るのだ」
男は困惑した
「要するに、えっと、あなた方の中で最初に集まろうといった生命体がいて、その結果今があると、
この島の森はどういう存在なのですか?」
「この森は始祖とミナの塊と言ってもいい、我らは今の形を保ち続け、森は森の形を保ち続ける、
ただし、形が保てなくなった場合は必ずこの森で息絶えることになっている
別の生命の森で死んだら、その同胞たちは帰ってこれなくなってしまうからだ」
「帰ってこれなくなることのどこが問題なんですか?」男は聞く
「わからぬ、我らは一つなのだ、これ以上同胞を失うわけにはいかない、
だから森へ集まるのだ」
男は驚いた、機械のくせに同胞などと言い出している
なぜかは不明だが、死ぬなら機械樹の森で死ね、ということらしい
大鹿のように、分解されていることからして、この機械生命体たちの終着点は森なのだろう
母なる大地に帰る、といったところだろうか
しかし我らは一つとか、今の形を保つとか、言っていることがいまいち理解できない
「なぜ、他の個体を襲うのですか?」
男は純真無垢な少年のような顔で狼の王に聞く
王は答える
「わからぬ、だが、我らは始祖の元に1つであることは明白な事実、だが同時に今の我ら一つ一つが
守るべき形であることもまた事実である」
矛盾している、なんだこれは
始祖ってなんなんだ、ミナってなんだ
どうやら機械生命体の食物連鎖というものは種の保存に近いが少し違うようだ
男は頭の中で何度も整理を試みた
だが考えれば考えるほど矛盾が増えていく
もういっそのこと人型に聞いてみたほうが整理がつくかもしれない
男は王に話しかける
「森があなた方の終着であるのなら、人型を森に還すのはいかがでしょうか?彼らも同胞でしょう」
狼は目を見開き、早口で男に言った
「やつらは違う、違う形だ、同胞ではない!」
男は混乱した
なんでこんな爆裂進化を遂げた機械生命体がいる中で、人型は古代から形が変わっていないのか
うーん、、もう難しくて頭がおかしくなりそうだ
王は落ち着いたのか、優雅な表情を取り戻し話だす
「人型の知識は森に必要なモノだ、だが同時にそれは危険でもある、異物となるやもしれぬ
だがそなたの話は実に興味深い、我々にとってあの人型は恐ろしい存在なのだ、
強力な上にどこにいるのかわからないのだから」
「この後人型と話し合いをします、おそらく決裂すると思います。本意ではありませんが
脅威である以上の島では戦いが起きるかもしれません、その際はご支援をいただけますか?」
王は天井を見上げつつ、ため息のような呼吸をした
男はまるで人間そのものだなとおもった
「よかろう、手を貸そう」

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